037 ダンジョンツアー開始!

 アリョーシャダンジョン1階のネズミ系魔物は、初心者冒険者でも苦戦する方が難しく、飛ぶコウモリ系魔物の方が厄介だが、身体強化の練習になる。

 足に魔力を集めて何度も跳ぶとコツが分かって来たらしい。

 スキルのなかったラズも魔力操作は慣れているので、何度も何度も繰り返すうちに、身体強化スキルが生えた。

 後はコウモリを倒すだけ…なのだが。


「一回のジャンプで届かせようとせず、壁蹴ったり、ネズミ蹴ったり、ぶつけたり、色々工夫してみろって」


 何とも不器用だ。


「ウラルは欲張らない、ジョルジュは判断が遅い。足から手に魔力集めるのも一瞬でやれれば、間に合うんだぞ」


 ウラルは一跳びで何匹か切ろうとするも、身体がついて来ておらず、ジョルジュは視野が狭い。

 アルは指導するだけじゃなく、怪我しそうな攻撃をする魔物をデコピンする感じで圧縮した空気を飛ばす風魔法で弾いていた。弾くだけのつもりが弱い魔物なので死んでるが。


 三人のステータスを鑑定して、疲れて来ていたので、ドロップ品を拾ってから早めに休憩にする。

 他の人の邪魔にならない小部屋で結界を張り、土魔法で作った六人掛けのテーブルセットを出した。


「お疲れ」


 戦闘で少し汚れている三人とアル自身にはまず【クリーン】をかける。

 冷たい方がいいかと、普通に水魔法で出したお湯でハーブティを淹れてから、氷魔法で冷やした。例の鈍器に使える丈夫で耐熱なマグカップグラスである。

 軽く摘めるクッキーも真ん中に。


「…何かもうツッコミを入れるのにも疲れました」


「高度な魔法を無造作に使い過ぎだよな…」


「…このグラスって…」


「鈍器で使えるらしいぞ」


「……いえ、お湯でも割れないってすごい技術使ってません?と言いたかっただけで」


「そっか」


 作るのが面倒なので売り出す予定はない。


「身体強化のコツは掴めたよな?じゃ、この後は2階に行くから。四耳ラビットがそこそこ速いんで、拘束するからトドメを刺せ」


「はい。…美味しいですね、クッキー。どこで売ってます?」


「手作り」


「アルさん、お菓子も作れるんですか。趣味です?」


「実益。食にはこだわりがあるんで」


 あまりまったりしていると動きたくなくなるだろうから、休憩はそこそこで切り上げて2階へと行った。


 四耳ラビットの拘束は見易い方がいいかと、水魔法でムチを作って拘束した。

 重力魔法で足を重くしたり、結界魔法で一部以外は閉じ込めたり、土魔法で足を縛ったり、といった方法も出来るが、魔物によって変えて行けばいい。

 飛んでる魔物は風魔法で捕まえればいい。


 パワーレベリングなので、アルは次から次へと魔物を捕まえて三人の前に連れて行く。移動しながらなので魔物は途切れることもなく、万が一の危険もないよう場合によっては結界に入れておいたりもした。


 4階まではそんな感じで進み、三人もどんどんレベルが上がったことで体力もついて来た。

 自分で倒したい、と言うのでこの階からそうしたのだが、レベルが上がったからといって元々の戦闘センスは変わらず、経験も足りず、咄嗟に動ける程でもないので、ホーンラビットにいいように遊ばれていたりもした。


 そうして時間になるまで戦い、あまり冒険者が通らない所で防臭でドーム状の結界を張り、昼食にすることにした。

 まずテーブルセットを出し、全員に【クリーン】をかける。

 今度はお茶より果実水がいいか、と買ってあった果実水をそれぞれのマグカップグラスに注いだ。

 そして、魔石コンロを出し、鍋でスープを作る。ドロップ品を食べたかろう、と四耳ラビットの肉と持って来た野菜で。


 メインは作り置きのサンドイッチだ。

 食パンだけじゃなく、ロールパン、ピタパンに挟んだものもある。具は玉子、ハムレタスヤギチーズ、ベーコントマトきゅうり、照り焼きチキン、オークカツ、ポテトサラダ、ジャムと様々だ。

 時間停止のないマジックバッグでも、異空間に保存するため、パンが乾燥している、といったことはない。


 大皿に盛ったサンドイッチを真ん中に置いて取り皿を配り、スープカップにスープをよそい、スプーンを差したら、出来上がり。


「はい、たくさん召し上がれ」


「こんなちゃんとしたご飯が食べられるなんて…」


「ダンジョンの中なのに!」


「…慣れて来た自分が怖い」


 最初は上品に食べ出した三人だが、すぐにがっつくように食べ出した。口に合って美味しかったらしい。


「快適に安全に、だろ」


 アルは食べながら、今のうちに、と紙と錬成したペンを出して報告書を書き出した。記憶が新しい時の方が書き漏らしがない。

 アルがかなりサポートしているとはいえ、三人は今までまったく実戦経験がなかったのだから、昼までに4階まで進めているのも頑張った方だろう。

 隠れてついて来る護衛たちは大変だっただろうが、それが職務なので頑張れ。


「このチーズ、すごい美味しいんですが、何のチーズです?」


 ウラルがそう訊いて来た。


「ヤギ。7階のジャンピングゴートのドロップ品だ。気に入ったんならたくさん狩ればいい」


「…あの、ジャンピングゴートってすごい勢いで崖を跳び回る魔物って、言いませんでした?」


「何事もチャレンジすることが大事だろ。どうしても無理なら手伝ってやるって」


「お願いします」


「罠を仕掛けるというのは効果ありませんか?」


 ジョルジュは狩人的思考になったらしい。


「罠を仕掛けてる時に突っ込んで来るぞ。おれの結界があるからこその作戦は自力で倒したとは言わねぇし、結界使うんならそのまま閉じ込めた方が早い。柔軟な考えは褒めてやるけどな」


「アルさんはどうやって倒したんですか?」


 ラズがそう訊く。


「追いかけて斬っただけ」


「…だけ、とか言わないで下さいよ~」


「そもそも、アルさん、まだ剣すらも出してないしな」


 ジョルジュがそう指摘し、


「ホーンラビット、素手で掴んでたしな」


とウラルが事実を述べる。

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