036 まず目標を決めよう!
カーラの兄及び従兄弟も割り切ったらしく、さくさくと歩く。
時間ロスしたせいで、ダンジョンへと往復している乗り合い馬車はもう行ってしまっていたので、歩くしかない。
「すみません。アルさん。父と妹の事情に巻き込んでしまって。カーラの態度も申し訳ない。でも、つい勢いで平民がどうのと言ってしまっただけです。子爵の権力なんてささやかなものですし、民あってことだと、カーラだってちゃんと分かってますから」
「気にしてねぇよ。ただ、昨日ちょっと会っただけの男に甘え過ぎだな。そっちが権力振りかざすんならって、根負けしたフリでダンジョンに連れ込み、行方不明にしたり、魔物に引き渡したりってこともあるんだからさ」
「帰ったらしっかりとカーラに説教します」
「でも、ダンジョンって低層は人が多いんじゃないです?悪いことはし難いんじゃないかと思いますが」
「行ってみれば分かる。1階から3階は洞窟タイプ迷路のようになってるから、いくら人が多くても時々すれ違う程度だぞ。しかも、ダンジョンだと死体の始末も考えなくていい。一定時間で吸収されるからな」
「そう、なんですか…」
「ちなみに4階からはフィールドフロアで4階は草原フロアでそこそこ木もあり、丘もあり、で見通しは効かない。5階は森林フロア。今日はそこで泊まる予定だな。6階の山もある高原フロアはちょっと涼しいから。お昼は4階予定」
「分かりました。陣形はどうします?ぼくは魔法もちょっと使う剣士、ジョルジュも少しの魔法と槍を使いますので中衛。ラズは魔法メインなので後衛がいいかと」
縦に三人並ぶことになる。
「それでいいだろ。魔法メインでも接近戦が出来た方がいいし、最初は魔物もかなり弱いから、交替で。ラズは武器は持ってる?」
「ナイフなら」
「杖は?」
「ありますけど、武器ですか?」
「バトルスタッフって言って、魔法の発動媒体兼鈍器という使い方もあるんだよ。杖、ちょっと見せて」
素材によってはすぐ壊れてしまうので。
ラズはウエストポーチから杖を出して、アルに渡した。120cmぐらいの長さで、素材は木…じゃなく、トレントだ。杖の上に魔石があり、柄の木が絡んだようなデザインだった。
「あまり強度がねぇから殴るのはマズイな」
丈夫さを付与すればいいのかもしれないが、上位種じゃない単なるトレントなので割れてしまいそうだ。杖をラズに返す。
「剣は使える?」
「一応、習ってますが、重いので持って来てません」
「貸してやるよ」
アルトが使っていた普通のショートソードをマジックバッグから出して渡した。
「いいんですか?アルさんの武器がなくなりません?」
「大丈夫。それは今は使ってねぇ武器だから」
「大事に使います!」
「やらねぇからな?」
一般的なショートソードで大した質じゃないが、素材としては使える。ミスリルと混ぜて改めて普段使いの刀を作るのもいいかもしれない。
「分かってますが、そう安いものじゃない剣を貸してくれたのが嬉しいんです!」
「こうも強い人なんだから稼いでると思うけど」
ウラルがツッコミを入れた。
「正解」
「それで、アルさんは陣形のどこに入るんですか?」
そういえば、とばかりにジョルジュに訊かれた。十五歳の割には小柄なので、もう少し若く見える。
「入らねぇよ。強いて言うなら遊撃かな。最初はともかく、魔物の機動力が上がって来るとお前たちじゃ対応出来ねぇだろうし。ナインさんに本人に訊けって言われたけど、パワーレベリングする?おれが魔物を捕まえて来てお前らはトドメを刺すだけ。それでレベルがガンガン上がるのをパワーレベリングと言うんだけど」
「ええっ?そんなのってありなんですか?」
「ありだから、パワーレベリングって言う言葉があるんだよ。レベルを上げておくとやれることが増えるし、何があっても生き残り易くもなるしな」
「でも、アルさん、大変じゃありません?魔力だって限りがありますし」
「平気平気。おれの魔力量に不安があれば、いくら適当なギルマスでももう少し人数付けたって」
アルの言葉に三人は顔を見合わせて頷いた。
「では、よろしくお願いします」
「お願いします」
「お願いします」
「任せろ」
「そういえば、アルさんって基本的に無詠唱なんですか?魔法名すら、まったく何にも言ってないような気がしましたが」
ウラルはそんなことが気になったらしい。
「無詠唱でも言うもんなの?」
「言う人が多いんじゃないかと。間違って発動してしまうことの防止もあって」
「えー?間違って発動するのはねぇだろ。イメージを固めねぇと魔法が発動しねぇんだから、間違うこと自体があり得ねぇ」
「…言われてみればそうですね」
「パーティを組んでるなら他の人に教えるためもあると思う。射線に入ったら危ないし」
魔法をメインで使うラズがそう考察した。
「いや、曲げられるだろ。イメージ次第で」
「曲がりませんから!普通は!」
「普通じゃねぇし」
「…それを言われると」
「そもそも、アルさん、そうも強いのに何でまだDランクなんですか?」
「登録してまだ半年だし、あまり依頼を受けてねぇから。街から街へと移動してたし」
少し遠い所へ行こうとすると余裕で何ヶ月もかかってしまうのが、流通が発達していないこの世界だ。
三人もその理由で納得したらしい。
「アルさんの戦闘スタイルってどんな感じですか?魔法を撃ち込んで怯ませて、剣で攻撃とか?」
ジョルジュがそんなことを訊いて来た。
「何でそんな段階踏む必要があんの?大半は首斬っておしまい。魔法しか通じねぇのならだいたい一発。あ、けど、ジャイアントワームは時間がかかった。無茶苦茶再生能力が高くて燃やし尽くすまで十分ぐらいかかったかな」
「……それって強い人にしか出来ない戦法ですよ…」
「って、結界魔法で閉じ込めて魔法を、とかやらないんですか?」
「何でそう手数をかける必要があるんだよ。魔力には限りがあり、ダンジョンでは何が起こるか分からねぇんだから、常に備えは必要だ。魔力を使わなくても済む所は物理攻撃した方がいい。ラズも考え方を変えた方がいいぞ」
「はい。でも、群れを相手にする時は魔法でいいんですよね?」
「そうとも限らねぇ。出会う魔物全部殲滅して行く必要はねぇんだから、逃げる避けるってのも常道なんだよ。魔法は魔法でも身体強化は使えるか?覚えてるのなら逃げ足の面でも優秀だぞ」
「身体強化は使えませんけど、魔法使いでも使うもんなんですか?」
「体力がない魔法使いだから、だな。身体強化スキルを生やすことを目標にするか」
「二泊三日で大丈夫なんです?時間がかかるものでは?」
「レベルも上がるんだからスキルも生え易くなるハズだ。ウラルとジョルジュは身体強化スキルは?」
「ありますけど、上手く使えてません」
「おれも短時間しか使えないです」
「じゃ、ウラルとジョルジュは使いこなすことを目標にするか。…あ、そうだ。ドロップ品、おれ抜いて三人で分けていいぞ。おれは依頼報酬入るし」
アルは浅層階の欲しい物は手に入れているし、いつでも手に入ることもある。
「ありがとうございます。でも、ドロップ品全部は持って帰れないんじゃないですか?マジックバッグでも限りがありますし」
「入らなければ、こっちに入れてやるよ。おれのマジックバッグはダンジョン産なんで、かなりの大容量だ」
20m四方は大き過ぎたか?と思える程に。
「教えちゃっていいんですか?盗んでも欲しい人はたくさんいますよ」
「おれから奪える奴はそういねぇだろ」
「盗むのはまた違うんじゃないですか?幻惑系の魔法や魔道具や薬もありますし」
「状態異常全般効かねぇし。10階以降の魔物はからめ手の魔法や攻撃して来るけどさ」
【物理・魔法・状態異常全耐性】で耐性であって、無効じゃねぇのにな?とアルとしても不思議に思ったが、結果オーライだ。
「それなら大丈夫そうですが、トラブルになるので、マジックバッグのことは言わない方がいいと思います」
「使ってれば、バレバレになっちまうって」
なので、あっさり教えたワケだ。
「どのぐらい入るんですか?」
「後で分かるよ」
アルはそう流し、魔物情報を教えながら歩き、ダンジョンに到着した。
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