030 さすが、おれ!

 ギルドカードをもらった後、せっかくだから依頼を受けてみようか、とアルは掲示板を見てみた。自分のランクの一つ上のランクまで受注出来る。


 ダンの言っていた通り、ダンジョンの採取依頼が多い。

 だいたいはドロップの肉だ。収納から放出すればすぐに十件以上達成出来るが、そんな気はない。

 では、河原に行って、ダンジョンツアー最中に楽が出来るよう作り置きでも作っておくか。

 しかし、河原に着いた所でアルは考え直した。


「……待てよ?作り置きすると、うっかり温かい料理を出しそうなんだけど?火魔法の応用で温めましたってのも…そんな器用な温め方はまだ出来ねぇし」


 考えてみれば、ダミーボディバッグのファスナーもマズイ。

 仕方ない。

 濃紺のボディバッグが余っているので大容量のマジックバッグにすることにした。余程のことがない限り、依頼最中は空間魔法は封印だ。


 大きさは20m四方にし、魔石はCランクのブラックベアを使う。10m四方で魔力を600消費したので、比例するなら1200消費する…ハズなのだが、魔石のランクが上がってるからか、1000で済んだ。

 法則を検証したい所だが、高ランク魔石は下層でしか手に入らないので、たくさん手に入れてから検証しよう。


 作ったマジックバッグのお試しついでに、六人掛け食卓セットと食器類、土鍋やキッチン道具を土魔法で作成して、一応、二泊三日の水、食料、雑貨その他を空間収納から取り出して、どんどんマジックバッグに入れて行く。

 寝具はどうするべきか。


「錬金術で二段ベッドを作ってみよっかな」


 錬金術もイメージだ。木材を取り出してよくある木製ベッドをイメージすると、これだけの木材なら二台までしか作れないことが分かった。

 では、まず、二台。

 神社仏閣のように釘を一切使わない『木組み工法』だ。DIYで色々作った経験が活きて、ほんの数分でイメージ通りに木製二段ベッドが二台出来上がる。構造的に簡単なのもあるのだろう。

 一応、木製はしごも付けたが、そう高くはないので、普通に上がれそうだ。

 その辺の木を倒して枝葉を払い、魔法で乾燥させてもう一台木製二段ベッドを作った。


 乗ってみて、少しささくれてる所を魔力を流して修正して行く。

 毛皮と羊毛と綿と布を出して薄いマットレスを、それぞれのブースに敷く。材料もないので羊毛綿タイプだ。手入れがいらない、と聞いたことがある。


 買ってある布だけでは足りなさそうだったが、羊毛で布が作れることも分かったので、敷・掛布団と毛布も六人分作る。

 ベッドの木枠以外は全部白木で地味だが、清潔感はあるし、染色に使える花や鉱石を見つけるまで、このままでいいだろう。後からでも染められる。


 自分には贅沢にランニングバードの羽を使って、念願の羽布団を作る。洗濯出来る布団カバーも当然付ける。

 他は間に合わせだし、【クリーン】があるのでとりあえずはなしでいい。さすがに大きいのでファスナーではなく、ボタン着脱にした。


 羽を出したついでに、膝丈のダウンコートも作る。

 襟回りにはブラウンのラビットファー、ボタンは牙を加工する。やっぱり、オフホワイトなので汚れが目立ちそうだが、現代日本並みのクオリティで軽くて温かい。

 思った通り、錬金術は無茶苦茶便利だった。

 どんどん出来上がる時間が早くなって行くのは、熟練度が上がって行くからだろう。


 あ、そうだ、元々の目的のファスナーを金属で作ってみなければ。

 アルはまずは鉄と噛み合わせる布でファスナーを作った。

 土魔法と比べてかなり時間がかかったが、何とかクオリティは保てた。


 では、このファスナーと作りたかったトカゲ皮を使った革のズボンを錬成。

 あまり伸びる素材ではないので、動きに支障がないよう余裕を持たせる。形はストレートジーンズと同じだ。


「おー思った通り!さすが、おれ!」


 自画自賛。

 早速、履き替えてみると、サイズもバッチリで動き易い。

 ただ、これから暑くなる季節なので、履くなら秋ぐらいからの方がいいだろう。

 そうか。コットンジーンズを作ってみればいいんじゃ、とダンジョンで採取した綿がたくさんあるのを思い出したアルは、ジーンズを錬成した。

 やっぱり、オフホワイトだが、元の世界で履いていた物とまったく遜色ない。

 …というか、色とボタンとサイズ(アルトの身体なので)以外は同じか?自分のイメージなのだから。


 河原の黒い石を手に取って、染色に使えるものがないかどうか何度も何度も確認してみた所…【鑑定】スキルが生えた。


「嬉しいけど、染色に使えるもんを教えてくれよ~」


 草木染めとかなかったか。まぁ、淡い色になるが、オフホワイトよりマシ。


「あっ、炭はどうよ?」


 木を燃やせば、たくさん作れるし、錬金術なら定着させるのも簡単では。

 思い付いたので、木を燃やして炭を作り、ハギレと炭で錬成してみた。グレー。

 しかし、手に付くことはないし、水で濡らしても同様だった。

 そのグレーの布と炭で更に錬成。

 濃くなって来たので、濃淡は炭の量によるらしい。


 では、とジーンズの本番錬成。

 成功!カーキ色っぽいグレーになった。

 ズボンの形なんて誰も注視しないので、普段使いでいいだろう。ファスナーもわざわざ見せないと分からない。濃淡違いで三本作っておいた。

 今度、染色に使えそうな塗料や素材を仕入れておこう。


 次はコットンのTシャツ。

 もちろん、首周りはリブ編みで。カットソーみたいなシャツは普通に売ってるので、まったく問題ない。

 色はその辺の草を使い、薄い緑系の濃淡色々で。

 グレーの下着も何枚か作っておいた。ゴムが見付からないのでリブ編みと紐だが、伸縮性のあるモノでゴムのようなものが錬成出来ないか、色々試してみなければならない。


 おっと、新しく作ったマジックバッグについビシバシ入れてしまったが、そろそろ何を入れたのかメモ紙に書いておかないとヤバイ。

 空間収納と違ってマジックバッグは出す本人が忘れた物は、全部出さないと出て来ないのだから。

 炭と粘土と木で鉛筆、草や木と接着剤で紙もたくさん錬成しておく。小学生の時の自由研究で作ったことがありイメージがしっかり出来ているので、これまた簡単だった。

 絶対無駄にならないタオルもたくさん作ると、ダンジョンツアーの準備は万全だ。

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