029 危うく温かい料理を出しそうに

 そこまで打ち合わせてから訓練場へと移動し、アルの結界魔法の強度を試すことになった。分かり易いよう曇りガラス風に色を付け、ドーム状にする。


 ナインも多少魔法が使えるので、遠慮なく打ってもらうが、結界はまったく平気だった。元Aランク冒険者のリックが愛用の大剣でぶっ叩いても、上級魔法をぶっ放しても傷すら付かない。

 そうも硬いのかな?と思ったアルも外に回って、結界を魔力を通した長剣で斬ってみた。

 抵抗なく斬れて結界は分解した。


「…斬れるけど?どっちもおれの魔力だから?」


「分からん。魔法はどうだ?」


「やってみる」


 アルはまた結界を張り直して、今度は土魔法で大きい岩を作り、10mぐらい上から結界に落としてみる。


「あ、ちょっと凹んだ。こういった攻撃は物理と一緒ってことか」


 大きい岩全体が魔力になってるワケじゃないからだろう。

 では、全部魔力なら?とアルは青い火の圧縮弾丸を作り、指鉄砲で結界に撃ち込んでみると、普通に貫通した。建物にぶつかる前に消す。


「おい、アル。何だ、その魔法。何で青かったんだ?」


「青くしたから」


「…………」


「火は高温になると青くなるんだよ。赤から徐々に温度を上げるとこうなる」


 赤→黄→白→青と温度を上げた炎を見せてやった。


「温度が上がるってことは攻撃力もってことか?」


「だな。こういったこと、やれる人って他にいねぇの?」


「いるかもしれんが、この辺では聞いたことないな。魔力も使うだろうし」


「まぁ、確かにオーバーキルになりそうだな。じゃ、続いて防臭付き結界」


 炎を消し、穴の開いた結界は解除して、お馴染みの防臭付き結界をアルの周囲に張った。今度は透明で。

 それから、ダミーバッグ経由で空間収納から温かい料理を…危ない危ない!普通のマジックバッグには温かい料理は入ってないのだ!

 少し焦りながら柑橘系フルーツを出し、皮を手で剥いた。普通はすっぱい香りが広がるが、結界の外の人には分からない。


「本当だ。全然匂わない。…ああ、ここにあるのか結界」


 リックがぺたぺたと結界を触る。


「今は物理的にも張ってるけど、臭いだけ防ぐ結界も張れるし、音を遮断することも出来る」


 アルは臭いと音を遮断する結界に張り直す。

 パクパクと口は動くが、声は聞こえない。アルはフルーツをしまって、パンパンパンと手を叩く。


「聞こえねぇだろ?」


 確認したようなので、結界は解除した。


「思った以上に高性能の結界でした。これで旦那様も安心出来ることでしょう。どうぞ、よろしくお願いします」


「ああ、任せてくれ」


 引率は。


「条件がある。冒険者に礼儀作法がどうの、言葉遣いがどうの、身分がどうの、言わねぇように。呑めねぇのなら、この依頼は降りる」


 どれだけ便利な奴か教えた後なので、この程度の条件は呑むだろう。


「かしこまりました。お伝えします」


 ナインはそこで子爵家に帰り、ギルマスは仕事に戻り、アルは受付へ行って受付嬢からDランクに更新したギルドカードをもらった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る