020 『妖怪子泣きじじい』はいかがだろうか

 アルはお先にアリョーシャダンジョンへ行くことにした。

 冒険者ギルドを覗いて依頼を受けるのもありだが、朝の混雑してる時間帯に行きたくない。


 ダンジョンの出入口は、誰かが見張ってる、料金を徴収している、といったことはまったくなく、冒険者じゃなく、一般人も気軽に入っていた。さすが、食材ドロップが多いだけある。

 このダンジョンは別に冒険者資格はいらない。難易度が高いダンジョンは入場制限を設けている所もあるらしい。


 1階は一番多い洞窟タイプ。

 壁が薄っすらと光っているので、光源がなくても問題ない。

 出て来る魔物は大きいネズミ系とコウモリ系。

 小さい魔物は魔石も小さく買取価格も安く、ドロップ率も悪いので、避けて行く人たちの方が多い。

 ギルドの資料によると、ドロップは大半が魔石、ポーションと毒消しはレア。

 ポーション類は持っておいて損はないので、アルは長剣とキックでさくさく倒しながら、ドロップを回収しながら進む。

 レアと言われつつ、ポーションも毒消しも五回に一回ぐらいの確率で出る。ステータスの幸運が影響しているのだろう。


 ダンジョン内の魔物は倒すとドロップに変わるので、死体が残らない所がいい。まるでゲームのようなので殺す禁忌も感じない。…いや、キングレッドベアやフォレストウルフだって、まったく躊躇わなかったか。敵対するなら殺すのもやむなし、だ。


 索敵で隠し部屋の位置が分かったので、中へ入り、番人ならぬ、番魔物の人間サイズの巨大ネズミを倒すと、ドロップした魔石と宝箱を回収した。宝箱には革手袋が入っていた。

 鑑定は出来ないが、収納すると品名が分かるので、それで単なる革手袋だと分かったのだが、意外とすごい使い途や効果でもあるのだろうか。

 両手に載るぐらいの小ささだが、宝石で飾ってあるキラキラした宝箱の方が価値がありそうだ。ギルドで鑑定してもらおう。


 2階への階段はすぐ見つかったので、階段を下りて2階に行く。

 魔石は定番として、それ以外のここの魔物は肉と毛皮をドロップする四耳ラビット。

  肉は大きな葉っぱに包まれていて、衛生面での配慮もされている。

 これも何故か葉っぱに包まれた香辛料をドロップするアークフロッグ。色によって落とす香辛料の種類が違うらしい。

 時々バタフライ系も出て来て、色んな瓶入りフラワーオイルをランダムでドロップするらしい。


 食材目当てのアルはここからが本番だ。

 狩って狩って狩りまくる。

 ダンジョンの階層一つ一つはかなり広いが、浅い層にいる人たちは多く、行く先々で会うことになる。幸い魔物はたっぷりいるので魔物の取り合いにはならない。


 3階は洞窟タイプなのにフォレストドッグがいて、魔石以外のドロップはランダムで葉野菜。

 腕程の太さがあるワイルドスネークのドロップは牙。スケイルアルマジロのドロップは鱗。


 4階からはフィールドフロアで草原フロア。

 魔石以外は、肉と毛皮をドロップするフォレストディア、角で突撃して来るホーンラビットのドロップも肉と毛皮、集団で行動しているグリーンウルフのドロップは毛皮と何故か根菜類。よく分からないドロップだが、肉のドロップ率がいいので人気の階層でもあった。


 アルはそろそろ休憩しよう、と適当な所で防臭でドーム状の結界を張り、土魔法で作ったテーブルセットを出し、お茶菓子に魔石コンロでパンケーキを焼くことにした。

 重曹やベーキングパウダーがないので膨らみは悪いが、卵を卵白と卵黄に分けてしっかりと泡立てれば美味しく頂ける。


 時間停止の空間収納の利点を活かすために、焼けるだけ焼いて収納して行く。砂糖の代わりにはちみつを入れた優しい甘さのもの、ココアを入れたもの、と三種類作る。

 トッピングにアイスを載せるのもいいな、と氷魔法で作った。バニラビーンズが欲しい。


 手際よく全部焼いて、今回食べる分だけ皿に盛って後は収納にしまい、フルーツとアイスとはちみつとバターをトッピング。

 紅茶を用意していただきます、と手を合わせてから食べ始めた。

 美味い。

 我ながらいい腕をしている、というのもあるが、異世界産小麦の味が元の世界とは違うこともあるのだろう。


 次第に結界にどっかんどっかん、と魔物がぶつかって来るが、スルーだ。

 臭いを遮断しているのに、分かるのだろうか。

 ダンジョンの魔物は何も食べない、という説もあるのだが、場所と個体によるのだろうか。それとも、透明の結界なので一見、無防備に見えるからだろうか。


 よそ見している魔物たちにラッキーとばかりに近付いて来る冒険者パーティ。

 音を立てないよう歩けないので、全然不意打ちにならないのに。

 この階層は機動力の高い魔物ばかりだし、数えた所、十二匹もいるので、経験が浅い五人パーティでは手に余りそうだ。


 冒険者は自己責任。


 アルが優雅にティータイムしつつ、観戦していた所、劣勢になって来た冒険者たちにものすごく睨まれた。

 自分たちの実力もわきまえず、見込みも甘い自分たちが悪いのに。

 そして、そんなよそ見をして八つ当たりをしてるからこそ、一匹も倒せず、更に劣勢になるのだ。

 物理攻撃も魔法も弱く、連携も全然出来てない。今まで一匹、二匹の魔物を取り囲んだり、袋叩きにしたりで数の力で押して来たのだろう。


 すぐに若い冒険者たちは逃げ回り出し、フォレストディアの角とホーンラビットの角がそれぞれ突き刺そうとした所で、どちらも首が飛んだ。

 周囲の魔物も全部一斉に。

 すぐにドロップに替わると、ふわりと飛んでアルの手元に集まる。

 風魔法でまとめて倒したのもアルだ。本当に片手間で。

 一旦、結界は解除したが、再び張り直してある。面倒臭い連中だろうし、まだティータイム途中だ。邪魔されたくない。


 案の定、若いだけが取り柄らしい冒険者パーティは呆然から覚めると食ってかかって結界をガンガン叩き出した。

 その程度でどうにかなる結界じゃないがうるさいので、まだ使ったことのない魔法の練習相手になってもらうことにする。重力魔法だ。


 本当に重力を変えるのは難しいので、見えない重り…『妖怪子泣きじじい』はいかがだろうか。ものすごくイメージし易いので一人に一妖怪子泣きじじいを乗せて、どんどん重くして行くと、考えの足りない冒険者たちはどんどん姿勢が悪くなり、膝を付き、這いつくばった。この辺りになると泣き喚いている。

 まだまだ元気だな。


 ステータスボードを出して見てみると、しっかりと付与魔法、探知魔法と重力魔法が増えていた。

 付与魔法はマジックバッグを作ったからだろう。

 ここまで長剣メインで使って来たおかげで、剣術スキルも生えている。よしよし。


 重力魔法の魔力消費量は50のよう…いや、これは五人に一人ずつかけたということで、一人10か。多いのか少ないのかよく分からない。

 いつの間にかレベルも上がり、HPMPも増えている。この程度の増え方は誤差の範囲のような気がして来た。ステータスボードを消す。

 重力魔法は軽くする方も試してみたかったが、重力を断ち切って無重力になるイメージなので、どこかに飛んで行ってしまいそうなのは、さすがにマズイだろう。


 泣き喚いてうるさいので子泣きじじいは解除…重力魔法は解除し、結界も解き、こちらを向いてない隙にアルはテーブルごと階層の端に転移した。

 索敵して安全な場所なのは確認してあったが、念のため、再び防臭でドーム状の結界を張る。


 泣けばどうにかなるとでも思っている冒険者たちは、夢か幻でも見たのかもと思えばいい。

 いつまででもだらだらしていて、怪我をしたり、人数を減らしたとしても、それこそ自業自得だ。一度助けてやってるので良心も咎めない。

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