019 土魔法のフォークで器用

 翌日、朝食後に見せてみた所、ファスナーはダンに却下された。速攻で。


「他に誰も作れないぞ、これ」


「え、そこまで?鋳造や鍛錬だと難しいかもだけど、土魔法が得意な人なら作れそうなんだけど」


 アルは昨日、練習して使えるようになったばかりなのだ。

 土魔法熟練者なら作れると思う。


「無理だろ。まず構造が複雑過ぎ、そして、一つ一つが細かい。そもそも、土魔法でこんなに細かい物を初めて見たぞ。土魔法のフォークで器用だと言われるレベル」


 フォークなら、結構大きくないか。


「…そうなんだ?」


「そうなんだよ。延々と作らされるハメになりたくなければ、商人に見つからないようにするんだな。見つかってもダンジョン産だと押し切れ。何でもありだ」


「そうする。…ところで、気配ないけど、ボルグは帰ってねぇの?」


「友達の宿、もしくはどこかの女の所にでも転がり込んでるんじゃないか」


「あ、先輩とか言う変態?」


「飲まされてことがあるそうだしな」


「やっぱり、かつての被害者で今も被害者なのか。学習能力と危機感がねぇな。じゃ、ボルグに会ったら湯船の件キャンセルだって伝えといて」


「分かった。で、アルは今日は初ダンジョンか?」


「そのつもり。食材が結構たくさん出るそうなんだよ。ギルドで資料見せてもらって写したからバッチリ」


「ははっ、食材目当てか。稼ぐんじゃなかったか?」


「どうやっても稼げるし、昨日、キングレッドベアでも稼いだし」


 そういえば、バッグにかかり切りで討伐話はまだ話してなかった。


「は?どこにいたんだ、そんな大物」


「防壁から一時間ぐらい歩いた所の森。討伐依頼が出てたそうで討伐報酬ももらった。キングじゃなく、レッドベアで、だったけど」


「よく倒せたな。ベア系はただでさえ、タフだし、上位種になる程、刃が通らないのに。手数を多くしてボロボロにしたのか?」


「いや、ベアの脳天に雷を打ち込んで一発」


「……何もかも常識から遠い所にいるワケだな。分かった、理解した」


 ダンにため息混じりにそんなことを言われてしまった。


「雷魔法、使う人だっているんだろ」


「大半は痺れさせる程度の威力で、一発で倒せる程となると大量に魔力を使うから滅多にいないんだよ」


「へー。雷でも魔力はそう消費してねぇけどな。他の魔法使いとおれとでは使い方が違うのかも?ちゃんと習ったことはねぇワケだし」


「冒険者の魔法使いと魔法学校に通ったことのある魔法使いでは、発動方法がちょっと違うような話は聞いたことあるな。冒険者の方がより実戦的で短縮詠唱だったり、動きながらでも発動媒体がなくても問題なかったり、簡単な魔法なら無詠唱を使える人もいるし」


「詠唱終わるまで杖を構えるまで待ってて、ってのもマヌケだよなぁ。魔法学校出の魔法使いは研究の方に?」


「それと宮廷魔法使いや近衛魔法士になるな」


「名誉職?お飾り?」


「さてな。騎士団の方に実戦的な魔法剣士、魔法戦士がたくさんいるから、問題ないのかも」


「なるほど。で、ダンは引き続き中層?」


 10階ごとに転移魔法陣があるので、一度行ったことがあるなら、スキップ出来るのだ。


「誰か捕まればな。ソロはやっぱりリスク高いし」


「資料は見たけど、簡単なことしか書いてなかったから、中層のレベルがよく分からねぇな。集団が厄介?」


「それもある。ま、いずれ経験するだろ」


「だな。好みの食材を集めまくってて足踏みするかもしれねぇけど」


 ものすごくありそうだと我ながら思う。ドロップなので必ず思い通りの物が出るとは限らないのだ。


「それもまたダンジョンの楽しみ方だな」


 そんなダンジョン探索でもダンは肯定派だった。

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