018 ファスナーを作ってみる

 マジックバッグにしたコインケースはとりあえず、使わないので収納にしまい、新しく普通のコインケースを作る。

 今度は防犯対策に革紐を付けてベルトと繋げた。大した金額は入れるつもりはないが、一応。


 大金を稼げるCランク以降だと、冒険者ギルドにお金を預けて、銀行のように出し入れしたり、振り込んでもらえたりが出来るそうだが、使い勝手がいい空間収納があるアルはあまり使わなさそうだ。


 まだ眠くないので、アルは硬いベッドを何とかしたい、と設計してみる。スプリングを使ったマットレスだろう、やっぱり。


 針金のような物を身体強化して力尽くでスプリングに出来る。問題はウレタンの類いはまったく見かけないことだ。

  魔物素材でもいいから、いい感触の物はないだろうか。綿程度だとすぐヘタってしまう。

 異世界物でよく利用されてるのがスライムゼリーなのだが、この世界にあるのだろうか。ちゃんと弾力素材で臭いも問題ないだろうか。


 ベッドは後回しにするにしても、ファスナーは欲しい。

 鍛冶屋に行ってみるべきか。フルオーダーだとかなりの料金になりそうだし、細かい細工が出来るんだろうか。

 木か骨か牙でファスナー見本を…いや、付与魔法を覚えて硬化すれば実用に耐えるかもしれない。では、彫刻刀みたいな細かい切削道具を用意しないと。職人が使ってそうなのでありそうだ。明日にでも市場で訊いてみるか。


「…ん?土魔法で行けるかも?」


 何度も確認しているが、魔法はイメージだ。

 細かい物も鮮明にイメージすることで、思うままの造形になるだろう。


 収納に土魔法製テーブルや椅子が入ったままなので、それを土に戻してファスナーを作ってみる。

 壊れないよう硬く硬く圧縮し、火魔法で焼成する。

 ついでに、ラジオペンチも土と火魔法でがっつり硬くして作った。

 ファスナーを閉じたまま作成してるのでバラバラになることはなく、そのまま金具…土具を噛ませるのは布じゃなく、トカゲの革で。


「おお~天才かも、おれ」


 誰も褒めてくれないので、自分で褒めてみた。

 少し荒いファスナーで多少くっついていた所もあったが、スライダーのプルを引っ張ると軽く解け、滑らかに動かせて閉じ、動かせて開く、これぞファスナー。

 荒いのは修練次第かもしれない。


 早速、自分のボディバッグを改造して、ベルトで留める所は飾りにし、横からファスナーで開閉するようにして、大きい口は両側から閉まるファスナーにして現代のボディバッグになった。

 カーキ色のファスナーはアクセントにもなってるし、やっぱり、ファスナーだよな、と思う。


 明日にでも商業ギルドに持ち込んで登録して来よう、と思ったが、影響が大き過ぎるだろうか。耐久性も分からないし、ダンに相談しよう。

 いや、それ以前に構造が細か過ぎて理解出来ないかもしれない。大きいサイズでの構造モデルをまず作ろう。


 他に試作でシンプルなI字ファスナー財布や、緩やかにカーブを描く化粧ポーチも作った。

 ファスナーを作るごとに精度が上がるのが楽しくて、ビシバシ作り、土具ファスナーを噛ませるのに革だけじゃなく布も色々変えて作ってみた。


 他の土魔法細工と違い、ファスナーは細かいだけにかなりの集中がいるので、適当な所で切り上げ、収納から紅茶の茶葉と茶器を出し、お湯は魔法で作ってティータイムにした。

 茶菓子が欲しい所だが、あいにくとないので、市場でいくつか買ったフルーツで。簡単な菓子ならオーブンがなくても作れるので、近いうちに何か作っておこう。


 火魔法を練習して現代オーブン並みに安定した焼き加減に、というのは中々難しいか。

 薪を使ったオーブンは火力が中々安定しないので、繊細な加減を必要とする焼き菓子は特に焼き加減が難しくなる。魔石コンロがあるのだから、魔石オーブンもどこかにあるのだろうか。

 さて、そろそろ寝よう、とお茶用品をしまい、寝支度をしてベッドに入った。やっぱり、ベッドが硬い……。布団も早めにどうにかしたいものだ。

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