017 マジックバッグ作成!
「ダン、ちょっとマジックバッグ見せて」
夕食後、アルはダンにそう頼んでみた。
「いいけど、使い易いよう作り直すのか?」
「いや、どうなってるのか作りが見たい。魔法が何となく使えるようになったし」
「その何となくって何なんだよ」
「原理が不明だし」
「げんり?」
「あ、これは通じねぇのか。おれのいた世界じゃ『科学』ってのが発達していて、何故、水は沸騰するのか、とか蒸発した水分はどこに行くのか、とか何でもかんでも調べて理論を発見して、便利な道具を作ったり生活を豊かにしたりもしてたんだよ」
「よく分からんな」
「そうすぐ分かるもんじゃねぇしな」
ダンにアルの部屋に来てもらって、ズタ袋のようなマジックバッグを見せてもらった。
「…お、魔法陣。…魔石を粉にして混ぜてある?」
魔力を辿って分析してみると、空間魔法を定着させるのが魔法陣で、魔石の粉は魔力供給、というか浮遊魔力を呼び寄せてるような気がする。
魔法陣だけメモに写すと、マジックバッグを返す。
そして、アルは宿の中庭に出て魔石ランプを点けてから、土魔法で乳鉢と乳棒を作り、フォレストウルフのDランク魔石をごりごりとすり潰し、そこに接着剤を混ぜる。自分のコインケースを出し、中のコインを別に移し、コインケースの内側の底に油性インクと羽ペンで魔法陣を描き、魔石の粉入り接着剤を底に塗って風魔法で乾かした。
よし、準備は整った。後はイメージ次第。
アルは魔力を魔法陣に注ぎながら、空間魔法を使う。
とりあえず、異空間収納は5m四方の立方体で出入口はゴムのように収縮して大きな荷物も難なく入り、魔力は浮遊魔力から補うように。
まとまった魔力が吸い込まれた後、ふんわりと優しく光って完了した。
コインケースの底は真っ黒になっていた。
試しにその辺の石を入れてみると、消え、次々と入れてみても同じく。落ちていた枝を入れても丸ごと入り、コインケースの底よりはるかに大きい鍋を入れても余裕で入った。
成功だ。
「よし、成功」
ステータスをボードに表示させてみると、300も減っていた。転移魔法より消費するらしい。
冷静なダンもさすがにぱっかーん、と口を開けっ放しだった。
アルは続いてダン用に作った黒のボディバッグを収納から出すと、ひっくり返してバッグの底に油性インクで魔法陣を描き、今度はバッグの内側全面に接着剤を塗って乾かして、同じように魔力を注いだ。
内側全面なのは、平たく開くコインケースと違って、バッグが底だけだと大きいものが入らなくなるからである。
異空間収納は10m四方にしたが、ランクがそう高くないDランクのフォレストウルフの魔石でも大丈夫らしい。
鍋やフライパンを入れてちゃんと大きい物でも入るのを確認してから、ステータスボードを確認した所、倍の600が消費していたので、最初に注ぐ魔力によって異空間収納の大きさは決まるようだ。
「だ、大丈夫か?アル。MPポーション飲むか?」
「いやいや、全然平気だって。色々と検証した結果、冒険者ギルドの魔道具は三桁までしか表示されてなかったんだけど、どうにか自分でステータスを見れるようにしたら、おれの魔力は六桁あったんで。しかも、魔力自動回復スキルが生えたし。元々六桁なのか、レベルアップしてそうなったのかは分からねぇけど」
「ろく……?」
「はい、お世話になった、なってるお礼。宿の部屋比較だと三部屋分ぐらいは入ると思う。売るのは勘弁してな。どのぐらい付与した魔法が保つのかは不明なんで、ヘタしたら詐欺でとっ捕まるから。おれが側にいるなら付与し直すだけだけど」
アルはダンにマジックバッグにした黒いボディバッグを渡す。
何を入れるか希望を聞いてからにしよう、と内袋まではまだ作ってなかったのでちょうどよかった。
アルとしては面倒なことになるに決まってるので、マジックバッグを売り出す予定はない。
「…いやいやいやいや、それ以前の問題だろ!何でそう簡単にとんでもないものを作るんだ!」
「そう言われても、やってみたら作れたし。あ、魔法の効果がなくなっても、入れた荷物がどっかに行くってことはないと思うから。出入口は固定してあるんでバッグが壊れて、荷物が溢れるだけだと思う。で、こっちはお揃いのコインケースな」
アルのコインケースはマジックバッグにしてしまったので、新しく普通のを作ろう。
マジックバッグにすると入ってる物が見えなくなるのが難点だ。手を突っ込んで取り出したい物を思い浮かべると出せる。
記憶が曖昧だと、何が入っているか分からなくなり、全部出して整理整頓することになる。
ギルドの食堂にカニを卸した高ランクパーティのマジックバッグのように。
その点、アルの空間収納は魔法なので、入ってる物が頭の中にリストで浮かぶ。
「……ありがとう。何か頭が痛いんだが、気のせいか?」
「ちゃんと人見てるっつーの。そのバッグ、あっちの世界ではボディバッグって言って、肩紐を調節すれば、斜めがけでもウエストポーチにしても使える」
しっかりとしたバッグはこっちの世界では珍しいが、普通の人は通り掛かる人のバッグの縫製なんて注目しないし、大きいワケでもないし、変わった武器を持ってる人もいるのでバッグ程度はさほど目立たない。
現にアルは作ったばかりのニューボディバッグを着けて一日を過ごしたが、誰にも何にも言われず、注目もされなかった。
「何かカッコイイ形のバッグだな」
「そうだろ。コインケースの方はどう?」
「見たことない形だが、お金が全部見えるようになってて機能的だな。たくさんは入らなさそうだが」
「防犯対策にもなるだろ。お金は一ヶ所に集めないのは基本」
「だな」
魔石の粉が入った接着剤も残り少ないので、とりあえず、アルは空間収納にしまっておいた。
湯船は自分で作ったため、ボルグに普通のボディバッグだけでもあげるのはちょっとやり過ぎだと思う。売るのはありか。友人の冒険者に会ったとかで、ボルグは飲みに行っているので、まだ湯船作成依頼はキャンセルしてない。
魔石ランプも収納にしまってから、アルはダンと分かれ、自分の部屋へ戻った。
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