016 キングレッドベアだった

 街を出た時のように、アルは親指と人差し指で四角を作ったぐらいの3×2cmサイズのギルドカードを見せて街の中に入った。

 再び冒険者ギルドへ行き、ステータスを出してもらうと、


HP:300/300

MP:900/000


となっていた。


HP:2300/2300

MP:123900/150000


 アルの出すステータスボードの数字はこちら。

 …ということは。


「四桁以上は想定してないのか」


「…あの、何か魔道具の調子が悪いようなんですが……はい?」


 言葉がかぶったので受付嬢が聞き返した。


「ステータスはもういいや。それより買取りしてもらえる?ウルフとベア持ってるんだけど、依頼は受けてなくて」


「あ、はい。お待ち下さい。依頼があれば討伐した後でも大丈夫ですから」


 依頼を調べてくれた所、「レッドベア」討伐依頼があった。

 見たままの名前だったらしい。

 買取カウンターに出して間違いないか確認した後、依頼達成処理をするそうで、ひとまずはギルドカードを返された。


「かなりでかいけど、どこに出せばいい?レッドベアかもっていうベア系」


「一匹なら大丈夫だ。こっちに」


 買取カウンターのおじさんが広い作業台を指差す。


「落ちそうなんだけど、大丈夫かな?」


 まぁ、いっや、とアルはボディバッグから出した、と見せかけて空間収納からベアを出す。

 やはり、半分は作業台から落ちている。


「……キングレッドベアだぞ、これ」


「へー」


 アルにはどれだけすごい魔物なのか全然分からないので、適当な相槌を打った。


「レッドベアの上位種でBランクだ。…おいおい、ちょっと待て!何で傷が全然ないんだ?ダメージもどこにもないように見えるし」


「ああ、雷落としたから素材は傷んでねぇと思う。ウルフ系も一匹あるんだけど、どこに出せばいい?ベアよりは小さい」


「じゃ、こっちに」


 もう一つの作業台を指差したので、そちらにウルフを出す。こちらは首と別々だ。


「Dランクのフォレストウルフを一撃かよ…ちょっと兄ちゃん。お前のパーティ、とんでもない凄腕がいるんだな」


「いや、倒したのおれでソロ。普通はそうも何度か攻撃しねぇと倒せねぇ魔物?」


 基準が分からない。


「ウルフ系は動きが速いからパーティでも、どうしても手数が増えるもんなんだよ。お前、見た目は若いけど、長寿種族で高ランクなのか?」


「いやいや、人間。Eランク」


「嘘つけ」


「ホントだって。ほら」


 アルは首にかけてるギルドカードを見せる。


「ランク詐欺もいいトコだな。ギルマスにランクアップの推薦をしとこう。で、全部買取りでいいのか?」


「どっちも魔石だけくれ。あ、ベアは肉美味い?」


「好き好きだけど、ボアに比べたら落ちるな」


「じゃ、魔石だけで」


 すぐに魔石だけ取り出してアルに渡し、続いて討伐証明証と買取金額を書類に書いて、それを持ってアルは再び受付に。

 キングレッドベアは無傷なので、かなりの稼ぎになった。これからも倒し方に気を使おう。


「き、キングレッドベアだったんですか…」


「依頼達成にはならない?」


「それは大丈夫です。ギルドカードをお借りしますね」


 依頼達成処理をさっさとしてくれた受付嬢だが、アルにカードを返そうとカウンターに置いた所でフリーズした。

 視線はランクの所で止まっている。


「…あの、アルさんがEランクなのは何かの間違いではないでしょうか。キングレッドベアを単独討伐出来る上、外傷がまったくないんですよ?」


「そうも強いの?キングレッドベアって」


「脅威度Bランクです。冒険者ランクはパーティでの対応になってますので、Bランクパーティが適正ランクなんです。更に上位種のキングならかなりタフになりますから、Aランクパーティでも手こずることになるかと。討伐依頼はBで出てましたが」


 ベア系はやはりタフらしい。


「え、そんなのが街の近くにいたのはマズくね?防壁から歩いて一時間ぐらいの所にいたぞ」


「だから、討伐依頼が出てたんですよ。他にベア系を見かけなかったのなら、このキングレッドベアだったんでしょう。偶然とはいえ、アルさんが討伐してくれてよかったです。みんなダンジョンに行ってしまって、他の討伐依頼は中々受けてくれる人がいなくて」


「中級まで向けのダンジョンだしな。ずっと誰も依頼を受けなかったらどうなるんだ?」


「ギルマスが何とかすると思います。元Aランク冒険者ですから」


 誰も受けない依頼の後始末まで業務内容か。

 ブラックかもしれない。

 買取報酬と依頼達成報酬を現金でもらったアルは、ダミーバッグ経由でさっさと空間収納にしまっておいた。食材はまだまだたくさんあるが、もう一つ魔石コンロを買おう。

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