014 河原でカレー

 立っているのは苦じゃないが、待ち時間が暇なので、土魔法で机を作り、その上に魔石コンロを出して土鍋で米を炊いた。

 時間経過なしの空間収納なので、炊いておけば、いつでも炊きたてご飯が食べられる。


 それにしても、まだまだ結界が解除されない。

 アルが魔力を注いでるワケでもないのに、だ。長く保つといいな、という願望が反映されてるのなら素晴らしい。


 魔物は周囲にいないし、ここなら匂いがしても大丈夫か、とカレーも作ることにした。

 魔石コンロは使ってるので、土魔法で鍋に合わせたかまどを作り、枯れ枝に火を点ける。作業台も土魔法で作った。本当に便利だな、土魔法。


 ちょっとやってみた所、風魔法で食材を一気に切れたので、すぐ炒め作業に入ることが出来た。

 ん?魔法で温度調整が出来るんだから、食材に直接…いや、やめよう。何か失敗するような気がしたので、それ以降は普通に作る。


 カレーのいい匂いが広がる。

 これはちょっとヤバイかも、と臭いを通さないようドーム状の結界を張ってみた。

 臭い限定にしたのでアルの出入りは妨げず、ドーム結界の外側を風魔法で臭いを散らし、漏れてないか確認する。

 …大丈夫そうだ。


 いい感じに煮込まれて味見した所、スパイスから作るカレーは得意料理なので、異世界食材でもちゃんと美味しく出来た。ご飯も炊けた。

 よし、おやつにカレーライスだ。

 椅子も土魔法で作り、木のカップに水を入れ、木の皿にカレーを盛り付け、木のスプーンで早速、頂きます、だ。


 河原で一人キャンプで春のような陽気も気持ちいい。

 いきなり異世界に強制単身赴任転移で、意識だけで身体も違うし、どうなることかと思っていたが、美味しい物を食べられるし、ダンたちも頼りになるし、前向きな気持ちになれる。

 ここに可愛い奥様がいれば、もっと楽しかったのに残念だ。


 そうだ、召喚出来ないだろうか?

 過去の転移者・転生者が同郷で醤油と味噌があるぐらいなのだから、呼び寄せる術も何かあるハズだ。意識だけ転移している自分が帰るよりは簡単のような気もする。

 こちらの時間だけが動き、元の世界は止まったまま、或いは進み方が遅いのなら、元の世界の人間は自分の異常に気が付かないままだろう。


 長生きしているドワーフやハイエルフ、或いは超越者に転移者・転生者の話を聞きに行くべきだろうか。いや、権力者か?過去に勇者召喚とかやってたりしないだろうか。

 …厄介なことになる確率が非常に高い。

 まずは生活を落ち着かせることにしよう。

 まだ盗賊捕縛の賞金が入るとはいえ、アルトの貯蓄も結構使っているのだ。


 ******


「あ、魚やカニ捕っとこ」


 空間収納には生き物は入らないので、うっかりしていた。

 食べ終わって食器は洗って鍋や土鍋はそのまま収納に片付け、防臭結界を解除した後、土魔法でバケツを作り、水魔法を使ってひょいひょい魚とカニを入れて行く。

 その程度ではまだ生きてるので風魔法でトドメを刺しながら。

 【クリーン】をかけてから収納した。これでいつでも新鮮な魚とカニ。

 …念のため、ちゃんと食べられるのかダンに見てもらおう。


 鑑定スキルが欲しいよな…と思いつつ、ふと空間収納内に意識を向けると、種類ごとの名前の後に(食用)(毒あり)となっていたので、一度、全部出して、それぞれ種類を確認しながらしまい直した。

 毒ありは燃やして埋めておく。一々収納する手間はあるものの、ちょっと便利な機能発見だ。


 最初に張った曇りガラス風円盤状結界は、まだまだ健在なので、そのまま放置する。

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