012 どかーんっ?

 いくら何でも手縫いで一晩ではダンたちのバッグまでは作れず、翌日、アルは午前中はバッグを作って過ごした。

 型紙があるので作業は速い。

 まったく同じだと間違えるかもしれないので、色違いにしてみた。

 アルがコーヒーブラウン、ダンが濃茶、ボルグが濃紺で。コインケースも同じ色で。

 ダンジョンのドロップ品のトカゲの革だが、倒すトカゲの個体によっても色合いが違って来るらしく、キレイで安いので何色か買ったワケだ。


 昼食は依頼を見がてら冒険者ギルドへ。

 ダンたちはダンジョンに潜ってる奴もいれば、依頼を受けに行った奴もいるし、アルのように他の用事をしている奴もいる。

 冒険者ギルド内の食堂兼酒場はさほど混雑していなかった。依頼を受けてる、ダンジョンに潜ってる冒険者が多いからだろう。


 今日のランチは鶏肉っぽいソテーとカニスープ、黒パンだった。

 硬めの黒パンより柔らかいピタパンの方がやはり人気らしく、文句を言う客もいたりする。

 スープに浸けると食べごたえがあって、結構いいのに。

 カニは正に沢ガニだった。そのままパリパリ行けて美味い。

 焼きカニもないかな?と店員に訊いてみた所、あるそうなので、それも頼んだ。これまた美味い。


「カニって近くの川で捕れたもの?」


 アルは自分でも捕りに行こう、と店員が近くを通りがかった時に訊いてみた。


「いえ、ダンジョン産です。高ランクパーティが、マジックバッグの中身の整理ついでに卸してくれたんです。長く潜ると荷物も相当多くなりますから」


 大容量のマジックバッグでもパーティで使っていれば、残りの空き容量を気にしないとならなくなるのだろう。

 そうだ。アルの空間収納の容量について、水や土でも入れて調べてみようと思っていて忘れていた。


「この近くのダンジョンの下層ってこと?」


「そうだと思います。どこに何がとまでは知りませんが、食材が結構出ますよ」


「そうなんだ。ありがとう」


 ダンジョンの情報をちゃんと調べた方がよさそうだ。


 昼食後、カウンターが空いてるうちに受付嬢に訊いてみると、ダンジョンの資料を貸してくれた。

 貸出はしてないが、メモを取るのは推奨だそうなので、近くのテーブルで紙に書き写すことにする。


 アリョーシャダンジョンは、初級~中級者パーティ向けの攻略されているダンジョンで階層は30階まで。

 階層ごとに出て来る魔物やドロップ品、セーフティゾーンのあるなし、洞窟タイプ、草原タイプ、山タイプ、その他どういった階層か、10階ごとにフロアボスがおり、転移魔法陣もある、といった簡単なことしか載ってない資料なので、すぐ写せた。


 資料を受付嬢に返すと、


「ダンジョンに潜る時だけ臨時パーティを組む人もいますし、下層まで行くのならパーティを推奨してます。そちらの掲示板にメンバー募集の張り紙がありますので、よければご利用下さい」


と教えてくれた。

 そういったシステムになってるらしい。


「ランクに関係なくパーティって組めるの?」


 その辺を訊いてなかった。

 知り合い同士、本人たちが納得しているのならともかく、新人が先輩冒険者に無理やり連れて行かれて荷物持ちとか囮とかさせられそう、なのだが。


「問題ありません。冒険者は自己責任ですから」


 色々と親切に教えてくれるが、そこまでは面倒見きれない、ということか。


「あ、そうそう、魔法の練習したいんだけど、街の外なら練習してもいい?もちろん、人のいない所で」


「問題ないと思います」


 確認出来たので、アルはさっさと冒険者ギルドを出て、街の外に行くことにした。


 そういえば、初めて一人行動か。

 何となく危険察知が出来るからか全然ドキドキしない。

 街道から少し外れた岩場になっている所で、アルは火魔法を試す。

 アルはダンに教わり、体内の魔力を感じることはすぐ出来て、生活魔法もすぐに使えるようになった。


 生活魔法のプチファイアはろうそくの火ぐらいの大きさだが、それに魔力を注ぎ大きくする。

 後は岩にぶつけるイメージだとファイヤーボールだ。

 が、ぽろっと失速して落ちる。ボールのように。


(炎のボールって移動すると尾を引くし、核の部分がないんだから、ボールには見えねぇんじゃ?)


 そう考えたのが悪かったらしい。無詠唱だったのでイメージも固まらなかったのだろう。

 ここは、いっそ炎のボールを投げる、と投球フォームもして発動してみると、一発でドカーンッ!と出来た。


 ……どかーんっ?

 爆発してないか。爆弾イメージが入ったような気がする。


 では、大きさは小さくして炎の温度を上げ、圧縮して密度を高めた青い炎の弾丸を発射、と指ピストルでやってみると、岩をぶち抜いた。

 ほとんど抵抗がなかったらしく、チッという小さい音だけで。


「おお、気持ちいいな!」


 こうもイメージ通りに行くとは、さすが異世界。

 転移者称号もこの辺の補正なのかもしれない。

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