011 物作りはセミプロ

 夕食の前にみんなで風呂に行き、四、五人が入れる程度の広さでも、久々の風呂はやはりよかった。

 生活魔法の【クリーン】で常にキレイにはしていても、湯船に浸かるマッサージ効果、温浴効果は侮れないし、魔道具で出した水はその辺の川や井戸より魔力が含まれてるため、多少の回復効果もあった。


「そういえば、湯船ってどっかで売ってる?清潔で水漏れなしなら素材は何でもいいんだけど」


 宿の食堂での夕食時、ふと思い付いたアルはダンに訊いてみた。宿の湯船は岩風呂だった。土魔法でベースを作り、岩をスライスして貼り付けたものらしい。


「見たことないな。風呂の文化は地域によってまちまちだし、その都度オーダーなのかもしれん」


「って、外でも風呂に入りたいってことだろ。なら、土魔法で作ればいいんじゃね?」


 ボルグがそんな提案をする。土魔法が使えるのだ。


「…え、そんなことまで出来るもんなのか?泥にならずに?」


「大丈夫。食器に使えるぐらいだから。粘土で形作って焼いた陶器って知って…」


「もちろん。ってことは、それが土魔法で再現出来ちまうってことか」


「丈夫にするには火魔法で焼いた方がいいけどな。土魔法が一番重宝する魔法なんだって。戦闘で土のつぶてを作るのはちょっと時間がかかるけど、アースランスで地面から槍生やすのは発動も結構速いし」


「しかし、いくら土魔法が使えても野営で風呂を作らないのは、魔力の温存しとかないと、いざという時に対応が出来ないからだ。アルが使えれば別に問題ないかも、だけどな」


「土魔法を覚えるまでどんだけかかるんだよ。それより、土魔法で作った湯船ってどのぐらい保つもの?焼けばずっと?」


「かなり保つと思うぞ。使って行くうちに補修はいるかもしれないが」


「じゃ、ボルグ、湯船作ってくれ。おれの収納に入れとけば、いつでも使えるし、お湯溜めて収納しとけば、すぐに入れる」


「…あ、なるほどな」


「でも、いつその風呂に入るんだ?アルはしばらくは経験値稼ぎでソロでダンジョンに潜るって言ってただろ」


 パーティだと経験値が割り振られてしまうし、レベルだけで言えば、ダンたちの方が30以上高いので。


「…うーん、結界魔法とか使えねぇかなぁ。魔法はイメージだそうだし」


 その辺も検証せねばなるまい。


「ま、ボルグ、手が空いたら湯船作っといて。一人用でいいから。報酬はもっと持ち易くてカッコイイバッグを作ってあげよう。ダンにも色々教えてくれるお礼で」


 街には雑な荷物袋よりはマシなバッグやリュックを売っていたが、デザイン以前の問題で縫製が雑、妙にいびつで技術が低かった。

 アルがダミーバッグとして買ったバッグも作りが酷いので安く買い叩いたが、後で改造する予定だ。色々材料も道具も買ってある。


「それは嬉しいけど、アルって実は職人?」


「趣味。いや、売ったこともあるから、セミプロか。鍛冶か錬金術スキルがあれば、もうちょっと凝ったのが作れるんだけど」


 バッグならファスナーが欲しい。

 構造は分かるし、加工のし易い真鍮で作ったことがあるので自分で作るのは難しくはないが、この世界の普通の鍛冶師に細かい物が作れるかどうかが疑問だ。

 市場で見た所では金具のたぐいはボタンやベルトのバックル程度だ。大小様々な形があるだけまだマシである。


「どこまで極めたいんだよ、それ~」


「この世界じゃ自分で作るしかなさそうだし。せっかく魔法があるんだからマジックバッグの自作が出来たらいいのになぁ。商売的にも」


 空間魔法を付与すればマジックバッグが出来るんじゃないか?とは思うが、ずっと魔法を継続させる方法が分からない。

 魔法陣や魔石を使うんだろうか。それとも素材からして違うのか。

 …いや、商人が持っていたマジックバッグはどこにでもありそうな素材だったか。


「そう簡単に作れるんなら、もっと出回ってるだろ」


「でも、作れるようになったら大儲けだな!」


「ロマンはあるよな」


 そんなロマンのある話をしつつ夕食を終えて部屋に戻ると、アルは早速、自分のダミーバッグを作ることにした。

 買ったダミーバッグをバラしてみた所、色々とアラが出て来て改造程度では収まらなかったので、一からである。


 バッグの形は様々あるが、冒険者としては身体にピッタリして戦闘や走る際も気にならないものがいいので、ボディバッグにした。

 ワンショルダーで斜め掛け、ウエストポーチにもなる三日月形タイプにする。

 背中に触る側にメモ紙や地図が入るよう薄いポケット、外側には細いベルトで閉じる蓋ありポケット。内側にはポーション瓶を固定出来るよう収縮のあるバイアステープバンドと仕切りと内ポケット。バッグ口は閉じ蓋に革紐のわっかを付け、ボタンにひっかけて閉じる。

 素材はトカゲの革で軽くて柔らかく防水で丈夫なのに加工し易い。しかも、多く出回ってるので安い。内側は布にする。ショルダーのベルト部分の調節はバックルを加工して調節出来るようにした。


 設計図を書いて型紙を作って布で作ってみて、使ってみて不具合を修正し、それからトカゲ革を使って作る。

 店員の言う通り、意外に縫い易い革だった。レザークラフトのように、穴開けをする必要はなく、布のように縫えるが、張りがあるので接着芯みたいなのはいらない。


 なら、コインケースも作るか、と型紙を作った後、同じ革でボックス型のコインケースを作った。

 この世界のお金は全部コインなので、開けば全部見えるボックスタイプが使い易いだろう。

 財布は単なる袋に紐でくくったもの、巾着もたまにある、といった程度なのだ。大金になると入り切らなくなるものの、普段使いには手のひらサイズ程度で十分だろう。

 スナップボタンもないので、これも革紐でボタンにひっかけるタイプにする。

 ダンとボルグにも作ってあげよう。

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