010 出来は三割といった所

 武器屋は割と大きな所へ行った。

 高額武器を扱っている程、店は小さい傾向にあるが、武器のケースやホルダーを扱っている所は汎用型武器が多く店も広い。

 側のダンジョンが初級~中級辺りなこともあり、客層もその辺りが多かった。


「んん?これ防具なのか?普通のシャツに見えるけど、お値段結構いいし」


 アルはダンに訊いてみた。胸当て肘当てすね当てといった防具のコーナーにあるということは。


「ああ。スパイダーシルク製だろ。丈夫で斬撃衝撃軽減効果があるんだ。鎧下に着ると更に効果を発揮する」


「へーそうなんだ」


 アルトは革の胸当てだけだったのでアルも同じくだ。

 もし、スパイダーシルクシャツを着ていたのなら、アルトも致命傷までは行かなかったかもしれない。あれば有用だろうが、さすがに手が出ないお値段だった。ヘタすれば武器の方が安い。

 ボルグは興味ないのか、そそくさと色んなケースがある方へ行っていた。

 アルとダンは武器の方へ移動する。


「って、刀あるし~」


 日本刀が長さ太さ違いで十本程、棚に展示してあった。

 一本だけは鞘から出して刀身をさらしてあり、他は鞘に入ったままだ。値段はスパイダーシルクシャツよりは安いが、他の武器よりは高い。


「これが刀か。かなり細身だが、耐久性はどうなんだ?」


「さぁ?素材が鋼じゃなさそうだしなぁ」


「ウインドリザードの爪と鋼の合金です。よく斬れますし、耐久性も問題ないですよ。試し斬りしてみますか?」


 上客が来た、とばかりに三十前後の店員が寄って来た。ガタイのいいダンに。Cランクなので装備も割といいものなので、その誤解は無理もないが。


「いや、おれじゃなく…」


「おれが試したいな」


 アルが立候補した。

 アルは短剣しか携帯してないので、客だとは思われなかったのだろう。


「失礼ですが、冒険者ランクは?」


「E。でも、『抜刀術』を少しかじったことがある」


 『抜刀術』という単語が通じるかどうか、とアルは思っていたが、店員は目を見開いて驚いた。やはり、過去の転生者・転移者が多少は剣術も伝えているらしい。


「で…では、こちらへどうぞ」


 店員はショーケースからアルが指差した一本の刀を取り出すと、アルとダンを先導して試し斬り専用と思しき店の奥の中庭へと連れて行かれた。巻藁が置いてある。


 刀を渡されたアルは、まずは鞘ごと振り、重さとグリップ具合を確認してから、腰のベルトに刀を差し、鯉口をカチャッカチャッと何度か切って、滑り具合を見た。ちょっと固めか。

 すらりと抜いて、素振り。

 重さはいいが、重心バランスがちょっと独特な感じだ。


「斬っちゃっても別にいい?」


 巻藁なら大した値段じゃないだろうが、確認を入れる。


「そのための巻藁ですから」


 言質が取れたので、アルは少し腰を落として構え、自分のタイミングで鯉口を切って抜き、鞘に戻す。残心を忘れずに。

 一連の流れに停滞はないが、自分の身体じゃなく、異世界製刀だけに、出来は三割といった所か。


「…あれ?斬ったように見えたんだが…」


「斬れてるぞ」


 異常がないように見える巻藁だが、アルがパンッと手を叩くと左下から右上へと斬線ざんせんが広がり、ぽとりと落ちた。


「おいおいおいおい!どこが少しだ!どこが!」


 ダンが大いにツッコミを入れた。


「事実。この程度の腕だと入り口程度だぜ、マジで。時々遊びで教わった程度だし」


 アルはまだ呆然としている店員に鞘ごと刀を返した。


「…お客様、寡聞にして存じ上げませんでしたが、名のある剣士の方ではないですか?」


「まさか。だったら、借り物の刀でももっと上手く使えるって。巻藁の断面を見てみ?左側が少し潰れてるから」


 無理に斬った証拠だ。アルは見なくても手応えと音で分かる。


「この程度、気にする方がどうかしてないか」


 ダンは巻藁の断面を見て眉を潜めた。


「もっと硬いものだと刃が立たねぇってことだぞ。言葉通りに。刀を持つならオーダーした方がいいな。ダンジョンでザクザク稼ぐか」


「そうも稼げるのは中層以降だぞ、Eランク」


「もうちょっと魔法を使えるようにしてからの方がいいか」


 空間魔法があるのだから、異世界物でよくある『次元斬じげんざん』とかやってみたいし、魔法を覚えるにはスクロール(レア程高額)か魔導書(高額)、もしくは生活魔法から発展させる地道な努力だそうなので、そちらを頑張るか。


 アルとダンが店頭に戻ると、ボルグがナイフケースをまだ迷っていた。一般的なナイフなので種類がたくさんあり過ぎだったらしい。

 結局、ボルグは値段と素材で選んだ。


 魔物素材が使ってある武器が多く、どんな魔物かも聞いて知識も増やしたので、見ているだけでも楽しめた。

 刀の試し斬りを薦めた店員は何か物言いたげだったが、スルーして武器屋を後にする。

 そして、日が陰って来た小腹が減る時間なので、屋台で適当に買って食べ歩きながら宿に帰った。

 買い物最中もちょくちょく食べていたが、美味しい物もあれば、これはちょっと、と思うものもあり、食レベルはかなりバラ付きがあった。

 残念なことに昆布やかつおぶしや煮干し、或いは小魚、小エビといった海の物を見かけなかった。

 いくら、このアリョーシャの街が海のない内陸だとしても、これ程、魔道具が発達していてマジックバッグもあるのに、まったく海産物がないのが不思議だった。


「海のもの?かなりの高級品だぞ。王都ならともかく、地方まで流通しないな。群れを作る厄介な魔物やでかい魔物が多いから何が食べられるのか、大半がよく分かってないし」


 なるほど……。

 それぞれの部屋に荷物を置きに行った時、ダンにアルが海産物について訊いてみた所、そんな答えだった。魔物のせいだったのだ。


「じゃ、川の魚やカニは?そういや、昼、魚のスープだったけど?」


「川魚だ。近くの川や湖で普通に自分で獲るから、市場にはあまり出回らないんだ。ギルドの食堂は仕入れルートがあるのか、、多く捕った冒険者が直接売ってるのかもしれない」


「…なんだ、そうなのか。釣り?仕掛け?」


「どっちも。大きい魚や魔物は槍で突く。ただし、大きい川には危険な魔物が多いから注意するように」


「分かった」


 カニがいるならカニ出汁はゲット出来そうだし、魚のアラも期待出来そうだ。

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