009 食材が豊富な街!
宿はあまり安くても衛生面と防犯面で難ありなので、中堅どころで風呂ありの所にした。
もちろん、ダンとボルグも同じ宿で広くはないが、それぞれ一人部屋だった。冒険者向けにこういった宿も割とあるらしい。
それから、露店が多い市場で食料・生活雑貨・消耗品や着替え、ポーション等々を買って行く。
護衛依頼報酬が割とよかったことと、盗賊が持っていた金を頭割りした分もあるが、アルトが元々拠点を移動しようと思って貯めていたのも大きかった。荷物になるのでこちらで買おうと処分した物も多かったらしい。
買い物自体は外国で買い物するのと一緒なので、別に戸惑わなかった。
ダンたちも初めての街なので、アルはダンたちと色々と見て回った。
アリョーシャの街は道も整備されてる所が多く、下水道が完備されていて、嫌な臭いもせず、活気もあり、文明レベルは中世より少し進んでいる感じだった。
だから、人気の街なのか。
近くにダンジョンがあることも栄えた理由で、初心者を卒業した駆け出しの冒険者も集まるので、アルトもこの街に来ようとしたワケだ。
肉や野菜はダンジョン産の物も結構出回っており、見慣れた物もあれば、見慣れない奇抜な奇妙な物も多かった。
異世界物で高いとされる香辛料や調味料は、ここではダンジョンの浅層で手軽に入手出来、手頃な値段だったこともあり、真っ先に買った。
名前は違っていても似たような香辛料があったので、カレーライスが作れる。
米も精米魔道具も普通に安価で流通していたのだ!
玄米で販売しているが、手数料を払えば精米してくれる。いつ精米したのか分からない物より、と玄米を買う人が多く、アルも同じく玄米と精米魔道具を買った。
ちゃんと使えるかどうかは店頭でお試し済みである。もちろん、魔石コンロも鍋も買っている。
米があれば、土鍋もあり、茶碗もあり、箸もあり、緑茶、紅茶、ココア、チョコレートまである。ダンジョンで板チョコが出るそうだ。しかも、滑らかで美味しいチョコなのである。
種類は少ないものの、醤油と味噌も普通に売っていた。これは絶対過去に日本人転生者・転移者がどこかで見つけて開発して広めたに違いない。
魔法があるこの世界は農業も魔法や魔道具を使って効率化しており、大量生産を実現し、保存も冷蔵・冷凍の魔道具だけじゃなく、更に日持ちさせる魔道具も実用化されていた。
この辺に関しては現代日本より上かもしれない。ただし、大半の平民には関係ない話だ。
冷蔵・冷凍・日持ちさせる魔道具も大型で、マジックバッグへの応用は実現出来ておらず、かなり高額なので一部の貴族と裕福な商人しか持っていないらしい。
商人たちも結構、フレンドリーで、さほど交渉しなくてもまとめて買うと値引きしてくれたり、半端な物をオマケしてくれたりと大盤振る舞いだ。
空間収納魔法はレアなのでアルは商人たちの目の前で使わず、何とかゲットした簡易マジックバッグです、とばかりにダミーバッグの中に空間収納の入口を開き、そこに入れていた。アニメや漫画のように光る魔法陣や水のような波紋なんて出ない。
空間収納も使って行くうちに、別に手で触れなくても視線で収納する範囲を指定するだけで収納出来ることを発見した。人前では使えないが、数がある時に便利だ。距離があっても収納出来るかどうかは、今後の検証が必要だろう。
「なぁなぁ、ちょっと思ったんだけど、アルって元はかなり顔がよかったりした?」
同じく買い物しながらも、ボルグがそう訊いて来る。
「いきなり何で?」
「そりゃ何か『出来る男』って感じだから。交渉するのに慣れてる感じだし、オマケももらってるし、いきなり副ギルマスが来ても動じてなかったし、で」
「それのどこが顔と関係あるんだ?」
「顔の造作は一緒でもアルになってからは何か凛々しくなってるから。女のあしらい方に慣れを感じるし、買い物もオマケされて当然な感じだし」
ダンもそんなことを言う。
市場でようやく鏡を手に入れ、今の顔を見たアルだが、暗めの茶髪でグレーだと思った瞳の色は薄い水色だっただけで、やはり、欧米人の十人並みで凛々しい、とは全然思わなかった。
元々のアルトの顔を知らないので比較が出来ない。
「苦労話が聞きたい?」
「……いや、やめとこう」
ダンは賢明にも引き下がったが、
「苦労ってアルを手に入れるために女たちが争ったとか?」
と好奇心旺盛なボルグは訊いて来た。
「その程度は軽め。幼い頃から誘拐されそうになったことが数知れず、イベントごとに追いかけられる集団イジメ、女を盗られた、気に食わないと絡まれる、薬を盛られることも日常茶飯事。裏社会の人間にも絡まれて組織的に襲撃されたことも。もっと聞く?」
「…もういいです、すんません……」
「でも、まぁ、男友達は結構いたんじゃないか?ナルシストの嫌な奴じゃなかっただろうし」
適当に意訳されてるだろうが、『ナルシスト』という言葉が通じるのは少し驚く。いるのか、この世界にも。
「ナルシストにだけはならねぇって。おれと母親と妹はほぼ同じ顔だったしな」
「…それはそれでスゲー」
「男女の双子じゃなくて、か?」
「三つ下の妹」
「その辺は覚えてるのか」
「どんな意味でも強烈な連中なんで。…さて、次は武器屋?」
「何か買うのか?」
「色々見てみようかと。メンテは鍛冶屋?」
「街によってどっちか、だけど、おれはまだ平気」
「あ、おれは行きたい。盗賊討伐でもらったナイフ、ケースがボロボロでさ」
ボルグがそう言うので、まずは武器屋に行くことにした。
盗賊の持っていた武器の質はバラバラだったので、盗賊を一番倒したアルが一番に選ばせてもらったものの、他の人たちは大差ないので適当な分け方になった。
まぁ、一歩間違えば全滅だったし、もらえただけでラッキーで、後はそう細かいことを気にするタイプは冒険者には少なそうだが。
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