第2話 人魚の涙
テトラポットの懐にお宝はあった。
岸壁に打ち付ける荒浪を砕くために、コンクリートのテトラポットが要所に埋設されている。特に港への出入り口には丹念に敷き詰めてある。
潮が引くとそこには牡蠣や
「お父ちゃん、こんなにあった」と小学4年の息子が、体操服に包んで牡蠣を持ち帰ってきた。かつての自分を見る思いだった。
「ほうか、頑張ったなあ」とは労っては見たものの、次の注意は怠ってはいけない。それは基本的には密漁ではあり、子供であるからこそ幾分は容赦されている行為だからだ。
「じゃけんどな、それでは漁師さんの取り分が減るんだ、もう二度と勝手に取ってはいかんけんね」と。
島では大人の目が常に何処かに隠れている。
「もうできんと」
彼は落胆した上に、私の厳しい相貌に怯えているようだ。
「次の
一年の内に大潮を挟む一ヶ月があり、干満の差が目に見えて大きい。
その週末を礁の日と呼ぶ。
その時期は漁協の手拭いさえ購入していれば、潮の引いた浅瀬の魚介類は取り放題になっている。この時期にかけて島民は其々の秘密の狩り場を開拓しては、獲物を攫われないように工夫を凝らしている。
そう。
この年頃ではなかったろうか。
自分が人魚に巡り会ったのは。
まだ水が冷たい時期でも、日を開けずに海に潜っていた。
水中眼鏡と安物のフィン、そしてお粗末な銛を持って岩場の陰に潜む鯛などを狙っていた。それで釣果が上がるほど鈍重な大物はいない。
それでもキラキラとした泳ぐ宝石みたいな稚魚が群れているのを眺めていた。
暫くして陸に近づけないことに気づいた。離岸流に掴まったらしい。それでも焦ることはない。陸に平行に泳いでいけば、その流れは収まって無事に泳ぎ渡ることを体験的に知っていた。
視界の奥で大きな動きが見えた。
思わず振り返ると、絹のような光沢のある大きな鰭が、ゆったりと動くのを見た。ごぼりと肺の空気を吐き出してしまい、慌てて水面で息継ぎをして再び潜ってみた。見たことのない大魚に違いない、この岩礁のヌシかもしれない。
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