第4話 私達の終わり

 入院して医者から言われた事は助からないかもしれないという事だった。


 すぐにはどうなるか分からないけれど、確立としては半々だと言われた。しかし私はその事もどこか他人事のように聞いていた。


 病院では懸命な治療が続けられた。面会する事は出来ず、ただ待つだけの日々が続く、入院生活の為に必要な物を届けては、どんな状況か聞いて帰る、そんな繰り返しの日々。


 一人になって改めて考える、倒れて生死の境を彷徨うまで飲酒を続けた彼、幼い子どもがいる父親だと言うのに、治療に行かない理由は面倒だから。


 借金の理由は酒代、バレないように小細工をしてまで飲み続けた。しかもその小細工のせいで倒れた発見場所は車の中。


 こうして日々生きているだけでも借金はかさむ、私はまだ借金の全容を把握できていない、何処にどれだけの金額を借金していて、いつまでにどれだけ返さなければいけないのか、私はそれを考えなきゃいけないのか?これから沢山成長する花乃と一緒に生活をしながら?怯えて生きていかなければならないのか…。


 考えが纏まらない、もし本当に旦那が死んでしまったらそれこそどうなるのか、どうにもならない焦燥感に私はただ焦るばかりだ。


 そんな時、病院で旦那が回復しつつある事を聞いた。しかしそれすらも私にはすでに他人事のように感じられて、私は大切な感情を何処かにぽろっと落としてしまったのかと思った。


 医療というのは凄い、あんなに冷たかった彼が元気に会話が出来るようにまで回復していた。退院の日、医者からアルコールを接種したら次は分からないと散々脅されて、懲りたような顔をしているが、実際はどうだか分からない。


 私はこれからの事について旦那と話し合う事にした。正直もう昔の関係には戻れない、その事を伝えると旦那は何で?と聞いた。


 何で?何でって何だ、理由なんて考えずともいくらでもあるだろう。それとも彼にはこれが問題に思えていないのか?だとしたら私と彼には大きな意識の差がある、しかも埋められない程の深い溝だ。


 私はもう彼とは話が通じないと、彼のご両親にこの事を相談した。しかし出てくる言葉と言えば煮え切らない説教になあなあの態度、借金の解決方法も治療に関する約束事も一切合切何も決まらない、結局何一つとして解決の糸口を掴めぬままに相手方との話し合いも無駄に終わった。


 信じられない事に、この話し合いの際の私の態度について陰口のように文句を旦那にこぼしていた。言い過ぎだとか、とんでもない態度とか、脳天気なことをのたまっている。


 息子が死にかけたのに、しかも自業自得で、酒を飲むのを止めなかったじゃないか、私はもう誰を頼って何を信じたらいいのか分からなくなった。


 娘の花乃を連れて実家に遊びに行った。花乃が大好きなシャボン玉を追いかけているのを見ていた。シャボン玉は風に乗って飛んでいく、娘の足の速さでは追いつく事はできずに割れてしまう。


 それでも花乃はシャボン玉を追いかけた。転んでも立ち上がってまた走り、転んだ拍子に泣いてしまってもすぐにまた笑って追いかけ始める。


 花乃が追いついたシャボン玉が割れた。その時にすっと思い立った。私はもう彼との未来を考えたくない、この子の未来に彼の存在は必要ない、私は私とこの子を守るために決意しなければならない、それを強く感じた。


 彼に私の覚悟を伝えた。


「もうあなたと一緒の未来は見ない、私はこの子を連れて出ていく、あなたはあなたが果たすことの出来る唯一の責任を果たしてください」


 共に生きると決めて、愛を誓い合って、そして血を分け合った子供まで産まれたのに、私達はこれで終わり、ここに至るまで一体どれ程別れ道があっただろう、もしあの時こうしていたら、こうしていてくれたら、時間はもう戻らないというのにそんな事ばかり考えてしまう。


 だけどもう私達は終わり、彼方に在るかも知れない不確定な幸せよりも今握る小さな手を守る事が私の決意だ。

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共に生きると決めたのに。 ま行 @momoch55

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