挽回不可。悪魔の能力

あれから、激しい攻防が続いた。

剣が交錯する。魔法が乱舞する。

爆音と衝撃が周囲を震撼させる。

戦いのギアが、もう一段上がる。


……それにしても、剣士さんは凄い。

俺がギリギリで追いついている攻撃を余裕の表情で跳ね返している。

先程の僅かな時間で、悪魔の攻撃を完全に見切れているらしい。恐ろしいものだ。現役の天才というものは。

それに、彼女を見ていると「負けられない」という気持ちが強くなる。

今日初めて会ったはずなのに、初めて戦いを見たはずなのに。なぜか、対抗心が燃えてくる。仲間なのにな。不思議だ。


それにしても、この悪魔はいったいどれほど戦えるのだろうか。

これまで、ここの軍人達や親父、そして俺と連戦を続けていたのにも関わらず、まだ余裕そうな雰囲気を醸し出している。やはり、言葉通りの化け物だ。

……しかし、その余裕も崩れてきている。

先程からずっと戦ってきた俺には分かる。コイツの体力も無限ではない。

それを証拠に、ヤツの体には浅いながらも確実に傷が増えている。元々長い間戦闘を続けていること、それに加えて剣士さんが加わって二対一になったこと。それらが確実に悪魔へ疲労と焦燥を与えている。

「……チッ」

悪魔が、小さく舌打ちをする。それから、少し大振りに剣を薙いだ。

「少し、雑なんじゃねえの?」

薙いだ風圧みたいなもので吹き飛ばされた俺は、ニヤッと笑みを浮かべる。

ボロが出始めた。ようやく一歩進んだっていう感じがする。


少しの沈黙の後、悪魔は溜息をつく。

「使う必要が無いと思っていたのだが、仕方がないか」

悪魔は小さな声で、呟いた。……今の言葉で、なんとなく察する。

きっと、隠された奴の力を拝見できるのだろう。


「教えてやるよ」


雰囲気が一変する。空気がまるで自然数倍に増えたかのように重くのしかかる。

奴から異様なオーラを感じる。本能的に理解してしまう。


……来る。


次の瞬間、俺は吹っ飛ばされた。

理解が出来なかった。ゴロゴロと転がっていく。何が起きたのか全く分からない。

瞬きをした刹那のうちに、俺の体はとてつもない衝撃に襲われて吹き飛ばされた。

剣士さんは大丈夫なのだろうか。一瞬すぎて隣を見る余裕すらなかった。

勢いが弱まってきたところで、腕を使って飛び起きる。前傾姿勢になって体勢を崩さないようにしつつ、足でブレーキをかけてなんとか止まった。


「……ってぇ。なにが起きたんだよ」

前を見ると、悪魔がだいぶ小さく見える。結構飛ばされたんだな。

先程まで居た場所に剣士さんが居ない。どこに行ったのか、とあたりを見回すと、俺とは別の方向で土煙が上がっていた。

どうやら、俺だけではなく剣士さんも吹き飛ばされているらしい。

とりあえず先程の位置まで戻ると、悪魔は心なしか笑っていた。

「どうだった?面白かっただろう」

「ああ、最高だった。どうやったか教えてくれないか?」

全く笑うことなく、悪魔に問う。

「そうだな。教えてやろう」

おっと、予想外の回答が来てしまった。先程からコイツはペラペラと不利になるような話を話してくれる。なぜなのだろうか。


「いいのかよ?教えちまって」

「なんだ。遠慮するのか?」

「流石の俺も遠慮するに決まってんだろ」

俺のことを何だと思ってんだこいつは。スイッチのことや、法力についてなど様々なことを教わっている。それなのにまだ欲しがるのは流石に強欲だろう。

「気にするな。これは貴様の為ではないからな」

俺の為ではない……だと?コイツの言う事は毎回解らねえな。

「最初に俺の能力を教えてやろう」

一拍を置いて、悪魔は告げた。


「俺の能力は『ベクトルを操る能力』だ」


ベクトル……確か、力の向きと大きさのことだったか。

「先程の芸当は、説明しないでおこう。頭を働かせるんだな」

先程の芸当……きっと俺が吹っ飛ばされたあれだろうな。

正直完全には理解できないが、きっと何かしらにベクトル量を付与して吹っ飛ばしたんだろうな。

「それで、ここからが重要な話だ」

ふと、気になったので剣士さんの方を見る。まだ動きは見えない。


「この世界には、ルールがある」


悪魔は近くの瓦礫に腰を下ろしながら、説明を続ける。

「この世界のルールは、俺達の間では『開示の掟』と言われている」

何回目かの光景だな。俺が悪魔の授業を受けるというのは。


この世界のルール……開示の掟とは、能力を相手に開示をしなければ力の出力が大幅に減少するというものらしい。その減少は人によって異なるとのことだ。

親父が言っていたことはこのことらしい。それを説明してくれよ、親父。


「なるほどな。だからお前は能力を明かしたのか」

悪魔はクスリと笑う。全く、本当に俺の為ではないじゃないか。

「それで、どうするつもりだ?」

悪魔は腰をゆっくりと上げて、首をポキポキと鳴らした。

その言葉を聞いた俺は、大きく溜息をつく。コイツと話をしていると、溜息が多く出てしまう。困ったものだな。

「どうするも何も、答えはひとつだろ」

ゆっくりと、剣を向ける。奴の言いたいことは分かる。しかし、不利になるということは吹っ飛ばされる時から分かっていたことだ。

そんなことで悩む必要はない。それに、悩む前に答えは出ている。

俺の真横を通り抜ける風を感じながら、ニヤリと笑う。


「覆してやるよ。何度でも」


轟音が、鳴り響く。

あえて言わなかった主語、その言葉の片割れが悪魔に襲い掛かるのだった……


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2024年5月18日 06:00

Battlefield Final Bullet 海色 @kaiiro

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