少女参戦。底が見えはじめる
俺の言葉を理解してくれたらしい彼女は、一切動くことなくジッと俺達の戦いを眺めていた。正直戦場を渡り歩いてきた彼女であれば少しでも動こうとすると思っていたのだが、まさかここまで素直に従ってくれるとは……
軍人というのは全員プライドが高いと思っていたが、これは偏見だったろうか。
「いいのか」
悪魔は攻撃を飛ばしてきながら、口を開いた。
その質問に俺は剣を振るうことで返答する。すると、奴は嘲笑うように剣を振ってきた。……少しイラっとしたので、今度は力任せに剣をぶつける。
「なんだ。別に間違ってはいないだろう?」
図星か、と笑う悪魔。そういえば、最初に比べてコイツとは話しながら戦闘するようになってきた。なんでだろうか。……別にコイツと話したいとは思わないのに。
「良いんだよ。これでな」
……と、笑い返しておく。しかし、正直笑うほどの余裕はない。
先程剣士さんに助けられて体力が多少回復したため、まだ戦えてはいるが、同時に消費も激しくなっている。
そりゃあそうだ。今までは俺のことだけを守りながら戦えばよかった。……しかし、今は剣士さんを守りながら戦っているのだ。誰かを守りながら戦うというのは、想像以上に大変なことなのだ。
はやく助けてくれ……
そう思うが、それを当人に言うわけにはいかない。
今焦らせてしまうと、きっとそれは負け筋になる。かといって、このまま俺の体力が尽きるというのも不味い。俺も彼女もやられて終わってしまう。
そこは悪魔の言う事が正しい。……まあ、認めたくはないが。
「それにしても、疲労が目立つぞ。そろそろ限界じゃないのか」
魔法を発動しながら、悪魔は煽ってくる。……るせ、知ってんだよそんなこと。
とりあえず、剣で魔法の軌道をずらして避ける。
「何度も忠告しているだろう」
気がつけば、目の前に紫の光が広がっていた。
……ああ、これさっきも見たな。注意していたはずなのに、またやらかした。
剣士さんが慣れるまで耐えるつもりだったのに、完全にまずった。
目を閉じる。親父と剣士さんに謝りながら……
そして、俺の首は体を離れる。
……わけではなかった。
やはり俺は幸運だ。ゆっくり目を開けながら、そう思う。
視界に光が差し込む、そこまで長い時間目を閉じていたわけではないため、目が眩むことはなく綺麗に世界が映る。
そこには、紫の光を遮るように、ひとりの影が立っていた。
「攻撃されるとき、目を閉じるのは良くないですよ」
その影は、まっすぐ悪魔を見つめながら俺にアドバイスをしてくる。
こういう時でも、この人はアドバイスをするほど余裕があるのだろうか。いや、そこまで余裕があるわけではないだろう。
「すいません。次から気を付けますね」
小さく、笑いが零れる。戦闘中だというのに。
剣士さんの先に居るはずの悪魔の顔を見ると、真顔のままだが少し驚いているような気がする。まあ驚くだろう。先程あった一度の攻防、それだけでコイツは彼女のことを「無能」だと評した。そんな彼女が悪魔の攻撃を止めたのだ。
……といっても、止めたのは二回目だけどな。
とりあえず、悪魔と剣士さんの鍔迫り合いに横から乱入して、剣を叩きこむ。
「大丈夫そうですか?」
剣を振りぬいて悪魔を無理やり吹っ飛ばしてから、彼女に声をかける。
すると、彼女はニコっと微笑んで、縦に首を振った。
「問題ありません。少し休んでもらってもいいくらいですよ?」
その言葉に、俺は苦笑してしまう。
「そーですね。じゃあお言葉に甘えようかな」
「えっまじですか!?」
「うそです」
肘で脇腹を突かれてしまう。やめてほしい。痛いから。
「冗談はこの辺にしましょうか」
一度、目を閉じて長く息を吐く。体力は正直回復していないし、集中力だって切れている。
しかし、彼女が参戦してくれるということで、気は楽だ。
ゆっくりと目を開けて、悪魔を睨みつける。悪魔にはもう動揺の色が見えない。
剣士さんが乱入してくることは想定外だったらしいが、流石に体制を立て直すのが早い。……だが、少しイラついているように感じる。
空気が、また研ぎ澄まされる。自分の思考が、更に一段と深くなるように感じる。
戦力が増えて安心……というわけにはいかない。それどころか、より一層緊張している。そりゃあそうだ。この人の足を引っ張るわけにはいかない。
少しでも足手まといになれば、一瞬で命を落としてしまうと感じるほど、俺達には敗北という二文字が迫っているのだ。
体力がない、集中が切れた、疲れた、そんな言い訳は通用しない。
自分に喝を入れて、悪魔に向けて突進する………
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