見た目は猛者、実は初心者


バキンッ……と、金属が砕ける音がした。


咄嗟に横を見ると、紫色の光を突き抜ける彼の拳がそこにはあった。

「お話し中だろ。見て分かんないのか」

彼は私と会話する時とは全く雰囲気が異なり、刺々しく言葉を投げる。

「戦闘中に会話をすることは隙を晒すことだぞ。小僧」

拳の先には、悪魔が手のひらをこちらへ向けて立っていた。


……はっきり言おう。今の攻撃は全く反応ができなかった。

確かに、彼のことで集中が削がれ反応が遅れたのは事実だ。しかし、万全の状態だろうと今の攻撃は見えなかったと、思う。

それを彼は、いとも簡単に防いだ。

「大丈夫ですか、剣士さん」

彼が、私に声をかけてくる。その声は、全く棘のない声だった。

私は首肯する。でも、変な汗が止まらない。これほどまで悪魔と差があったとは考えてもいなかった。

「……俺がメインで攻撃をします。剣士さんは、そのサポートをお願いします」

手首をパキッと鳴らしながら、彼は数歩前に出る。

「しかし、それでは貴方が――」

「――それで、奴の攻撃に慣れてください」

彼は鋭く、そして長く息を吐く。次の瞬間、彼の目から光も闘志もなくなった。


「そんで慣れたら、加勢してください」


その言葉を言い残して、彼は悪魔と正面衝突をした。

目の前で、悪魔と彼の戦闘が繰り広げられる。紫色に光る剣や魔法と物理攻撃を織り交ぜて不規則に攻撃する悪魔と、拳と細身の剣を振るい対応していく彼。

ハッキリ言って、全く戦闘に追いつけない。

途中で何度も私に刃が向いたことは認識できたが、体が動く前に寸前へ迫る。それを彼はまるで予知していたかのように捌く。


彼に、負担をかけさせている。


増援に来たはずなのに、助けられている。まだルーキーのはずの、この少年に。

その言葉に、つい唇を噛んでしまった。

……が、そこで彼の言葉を思い出した。

そして、私は大きく息を吸い、目の前の戦闘を凝視する。


私が今やるべきことは、悔しがることではない。そんなことしてる暇があったら勝つために、任務を遂行するために出来ることを行動しろ、私。


頭の中で私自身に喝を入れる。迷惑をかけるためにこの場所に来たわけではない。私と悪魔に大きな差があることは分かっていただろう。確かに、ルーキー君の実力には驚いたけど、味方だし心強い以外の言葉はない。


それから少しの間、私は人の領域を超えた二人の戦いを見ていた。

この攻防は、確かに速い。……しかし、速度的には目で追えない速さだと気づいた。

最初の攻撃は、私視点では完全に不意打ちだった。そのせいで圧倒的な実力差を感じたが、冷静になってみれば祖父の攻撃の方が速いし、捌けない訳では無いだろう。……といっても、悪魔の攻撃も遅い訳では無いし、きっと一撃一撃がとても強力なのだろう。


……問題は、そこではない。

冷静に見て、気がついた。

この二人の攻防は、レベルが高すぎる。

純粋な火力とか、スピードの話ではない。細かく見なければ気づけない部分、駆け引きが尋常ではない。

単純に攻撃しているように見えるが、この二人は互いの細かな動作や視線から、一瞬の重心移動、呼吸、更には魔力の動きすらも察知し行動している。それに加え、彼らは集中していなければ気づけないようなフェイントを何十個も重ねて攻撃、防御をしている。……つまり、この二人は何重にも重ねられたフェイントの、コンマ数ミリにも満たない隙間を抜け続けているのだ。


それにしても、ルーキー君の戦闘は驚きの連続だ。私でも一切動きが読めない。

悪魔も、一見簡単に見切っているように見えるのだが、実際は彼も余裕があるわけでは無い。


なぜこんなにも読みづらいのか、その理由は彼の目だ。

人間、攻撃する時は普通、どんな人でも殺気というものが出てしまう。それが無くても目から攻撃を察知することが出来ることが多い。

……しかし、彼からは一切殺気というものを感じない。それどころか、覇気や闘志なども感じない。……何も、感じないのだ。

その目は私と会話をしていた時とは別人のように異なり、一切光のない深淵の奥底のような目をしていた。

それに加えてまるで遠くを見ているかのように視線から悟らせない。

そのせいでいつ攻撃が来るのか、どこに攻撃が届くのか、ということが全く分からないのだ。


何度も同じ疑問を持つが、本当に、彼はルーキーなのだろうか?

私には、数々の死線を潜り抜けた歴戦の猛者のように見えてしまう……




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