増援到着、天才と秀才対面
剣が砕ける音が聞こえる。
砕けた紫の剣が破片から消失していく。
目の前の悪魔から、舌打ちが聞こえた。今まで避けるしか方法がなかったものを対処できるようになったのだ。相手からしたら大迷惑な話だろう。
そのまま左、右と拳をくりだす。悪魔は迫り来る手を払って反撃をしてくる。
先程から、この攻防が続いている。
現状では、殆ど互角に見えるだろう。しかし、俺は手の内をある程度見せているのに対して、相手は能力も使用できる魔法も見せてはいない。つまり、互角に見えるだけで、実際には俺の方が不利なのだ。
それに、これはなんとなく分かってきたことなのだが。スイッチを使用して攻撃をする度に体が重くなっていくような感じがする。これはなんでなんだろうか……
「気が抜けているぞ。小僧」
一瞬瞬きをすると、悪魔は目の前で立っていた。
まずい、完全に気を抜いていた。集中が切れてしまっている。
どうにかして対応しようとしたが、奴の動きに後出しじゃんけんで追いつけるわけもなく、その紫の剣は俺の首を捉えていた………
負けた。そう考えてしまった瞬間、火薬が炸裂する音が数発聞こえた。
俺の首を取ろうとしていた剣……ではなく、その根元にある悪魔の腕に何かの物体が突き刺さる。
悪魔は舌打ちをしながら腕を引っ込めて、バックステップで距離を取る。
火薬が炸裂した音……つまり射撃音の方向に目を向けると、そこには……
どこか見覚えのある女の子が立っていた。
Yayoi's side
「ここから先は、君に任せるよ」
ある程度進んだところで車は停止し、晴嵐さんはそんなことを言ってきた。
周りの景色をよく見ると、瓦礫や死体が至る所に転がっており、車が通ることができるような道ではなかった。
「分かりました」
言葉の意図を汲み取った私は、持ってきた武器を持って車を降りる。
「相手は悪魔だ。でも、君達ならやれると信じているよ」
その言葉は私にとってこれ以上ない言葉だった。今まで憧れ続けてきた存在に信じていると言われたのだ。嬉しくないわけがない。
喜びのあまり舞ってしまいそうになったが、今は戦場だし一刻を争う。任務を達成してから再び、お褒めの言葉をいただくとしよう。
「はい。行ってきます」
そう言って、私は瓦礫の間を駆け抜ける。
正直、周りの状況は壊滅的だ。たとえ未発達の学生といえど、ここは軍事学校なのだ。戦力が足りないわけがない。それでもここまで酷い状況になるということは、それほど悪魔という存在は強大なのだろう。
足が震えそうになる。どれほど戦地を経験しようとも、怖いものは怖いのだ。
それに、これは今まで経験したことのないS級の任務。しかも仲間は頼れる陽王と、軍人の世界に染まるどころかつま先を入れたばかりの新人だけだ。不安がないとは言い切れない。自信があるなんて言えるわけがない。
……でも、やらなければいけないのだ。私達が勝たなければ、この国は壊滅する。
「……大丈夫だ。行こう」
一度、太ももを強く叩いて、走り続ける。
やがて、二つの人影が見えてきた。視界に入った瞬間、片方の影が動いた。
人間離れした速度でもう一方に近づく。しかし、もう一方の影が動く気配はない。しかも、その影をよく見ると、正体は例の新人だった。
やばい。と思った私は、咄嗟に腰のホルスターから銃を抜いて数回トリガーを引いた。
新人ではない方の影、つまり悪魔は距離を取ったので、その間にスピードを上げて新人のもとへ駆け寄る。
彼は驚いた顔でこちらを眺めている。
「大丈夫ですか」
とりあえず声をかけると、彼は止まった機械が再始動するように動き出す。
「あ、ああ……助かった」
「私は貴方の味方です。増援に決ました」
その顔は誰だこの人……と言いたそうにしていたので、簡潔に伝える。
すると彼は納得したらしく、感謝の意を告げた。
「さて、貴方は休んでいてください。後は私が引き受けます」
彼も疲弊していることだし、一旦休ませようと考えた上での判断だったが、彼は首を横に振る。
「だめだ。それじゃあ君が危ない」
その言葉を聞いて私は少しイラっとしてしまった。
「貴方よりよっぽど勝率が高いと思いますが……?」
若干棘のある言い方をしてしまってハッとなったが、彼は冷静のままだ。
「そうじゃない。奴は悪魔だ。次元が違うんだよ。俺が一人で戦えていたのは偶然が重なった結果だ。いつまでも続くわけではない」
それに。と言葉を続ける彼。
「ひとりで勝てると慢心するほど、君は弱くないだろう」
その言葉に、私は何も言い返せなかった。
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