真実知る。教わった技術とは

「法力は、簡単に言ってしまえば命だ」

そう言って、悪魔は語り始める。


彼の話を要約すると、こうだ。

法力というものは全身の隅々まで巡っていて、生命の維持をしている。この循環が止まった時、体は朽ち果てる。そして、俺達はそれぞれの法力を少しだけ循環から取り出して使っているだけ。

俺達人間が詳しく理解していないのは、きっと悪魔達とは違ってある程度法力を失っても生きていけるから。


「ちょっと待てよ」

ここまでを脳内で整理したところで、俺は悪魔の語りを止めた。

「お前の話が本当なら、今俺がやった事って……」

「だから訊いてんだろ。お前はどこでその力を得たんだと」

俺は悪魔の質問の意図をはっきりと理解した。

確かに、これは悪魔達にはできない芸当だ。

それどころか、下手をしたら俺も死ぬような芸当であるのだ。そんなものを、俺は理解せずに使っていた。今思えば、相当リスクのある行動だったのだな。

「お前が今使った技術は、一歩間違えれば死に至る。お前達人間だとしてもな」

当人の話によると、悪魔達は法力生命体というものらしい。そのため、今使ったような技術は俺達で言うと、血液を無理やり止めてるようなものだとか。そう考えると、確かにコイツらには使えないなと思う。

そして、俺達は悪魔とは違って細胞が集まって出来ている。そこにエネルギー源として法力が流れているという感じなので、少しだけ止めても問題は無いわけだ。といっても、息を何分も止められないように、法力を長い間止めることは出来ないのだが。


「ていうか、お前この技術を知っているのか?」

そこで、俺は悪魔に問を投げかけた。

「ああ、知っている。というよりその技術は俺達の間では有名なものだぞ」

悪魔たちの間では有名な技術だと?この技術は師匠から教わったもの、それがこの技術を使えない悪魔の間で広がっている体術だといっているのか、こいつらは。


「その技術の名前は、スイッチ」


悪魔は、語りだした。

スイッチ……夢の中で言っていたことと一致する。してしまう。

名を知っているということは、本当に悪魔はこの技術のことを知っているらしい。

「全身の力の脱力だけでなく、法力を塞き止め、それら全てを当たる瞬間に開放する。そうして、止められた川が解き放たれた瞬間勢いよく流れ出すように力が伝わり、威力を上げるというものだ」

悪魔は言葉を続ける。「つまり、この体術は法力をぶつける体術だ」と。


「この体術を使えないお前達がなんで知ってんだよ」

俺は突っ込まずにはいられなかった。

そりゃあそうだろう。なんで扱える俺達よりコイツらの方が知っているのだ。扱えないというのに知っていても無駄だろう。

「それは至って単純な話だ」

なぜなら、と悪魔は言葉を続ける。


「大昔に魔族を滅ぼしかけた奴らが使っていた体術のひとつだからな」


大昔に……滅ぼしかけた体術?この一人でも馬鹿げた力を持つコイツらが?

いったい、どれほどバケモノなのだろう。その滅ぼしかけた奴らとは。

「大昔、創造神が世界を創造して少し経った頃、地の創造神が創り出した我々魔族と、人の創造神が創り出したお前達人間の祖……王族と呼ばれる人間の間に大きな戦争が起きた」

これは聞いたことがある。創造神話と呼ばれる大昔のお話。悪魔は、その時代から生きている種族だということも記されている。

「その戦争で、一番厄介となったのが王族の中でも『あるじの世代』と呼ばれた奴らだ」

主の世代……通称王族最後の世代。

合計十一人という少ない人数ながら、悪魔達を圧倒したと言われている王族の中でもトップクラスの実力を持っている世代のことだ。

名称の由来は、四天大王のうちの一人である逢魔主零おうましゅれいによって鍛えられたと言われているから、らしい。

四天大王というのは、よく分からない。


「そのうちの一人、幻王と呼ばれた男が使用し、魔族軍に多大な被害をもたらしたのが、そのスイッチと呼ばれる体術なのだ」


なるほど、つまり過去莫大な被害をもたらしたために、対策のために今現在までその技術が語り継がれているというわけか。


「……それを、俺に教えても良かったのか?」

俺は戦闘経験が浅い。それゆえに戦闘時の駆け引きなどには疎いのだが、それでも分かるほどこれは俺が有利になってしまうような情報だ。

教えてもらったということもあって、一応悪魔に訊いておくことにする。十分すぎるほどの情報は教えてもらった。この技術がどういうものなのか、これが大昔に何をしたのか、悪魔にとって不利になる情報のはずなのに、よくこれほど教えてくれたと思う。

「問題はない。たとえこれを知ったところで、お前では俺には勝てない」

言ってくれるぜ。でも確かに、この情報を得たからといって大幅に強くなれると言われたらそうではない。というより、どちらかといえば弱くならないための情報、といった感じだ。


「それより、そろそろ話もいいだろう」

一瞬にして、空気が変わる。先程までの話をするということもあって少し緩んでいた空気が張りなおされた感じだ。

「そうだな。始めようか」

俺は悪魔の言葉に頷き、剣を構える。

第三ラウンドというところか。今度こそ、この戦いを終わらせよう……



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