悪魔語る、世界の力

紫の剣が、砕け散る。


「……なんだと?」

目の前の男は驚愕の声を隠しきれていなかった。

正直、俺も驚いている。今まで少しずらしながら避けるくらいしか対処法が無かったあの剣を破壊することに成功したのだ。しかも、剣でも能力でもないただの拳で。

しかし、俺の動きは止まらない。相手は動揺しているのだ。戦闘において動揺というのは一番といえるほどの敗因となる。つまり、このチャンスを見逃すという選択肢はないということだ。

もう一度、今度は動きを止めずに、流れるように、脱力・緊張・解放を行う。


……しかし、流石は悪魔。この攻撃は避けられてしまった。


「お前、なんなんだ」

距離を取った悪魔は俺に質問を投げかけてくる。ここで話すメリットは正直あまりないが、なんとなく話したくなったので質問に答えることにした。

「なんだって、ただの高校生だよ」

すると剣が一本飛んできた。しかし、一本しかきていないので簡単に避ける。

一瞬戦闘が再開するかと思ったが、悪魔は一切動く気配がない。

「とぼけるな。ただの人間が出来る芸当ではないのだぞ」

……夢の中でやったことを試してみただけなのだが、そこまで言われることだろうか。

「お前が今やったことは、俺達にもできない芸当なんだぞ」

悪魔は言葉を続ける。俺はその言葉に驚くが、出来る限り感情を顔に出さないように気をつける。

……俺達、つまり悪魔たちにすら出来ない芸当だと?どういうことなんだ。

「……どういうことだよ、それ」

流石に、訊く以外の選択肢は俺にはなかった。確か夢の俺はこう言っていたはずだ。


インパクトで法力を爆発させる体術。師匠から教わった、体術。


「法力を、爆発させる?」

そこで、疑問がそのまま言葉として出てきてしまっていた。

「おまえ……どこでその力を得た?」

俺の言葉が耳に入ってきたらしく、悪魔は更に質問を投げてきた。

「これを知っているのか?」

質問を投げ返してしまう。どこでと言われても、夢の中で自分がやっていたことだしいつどこで教わったのか分からない。どういう技術なのかすら解らない。

わかることは、師匠という人物から教わったものということだけ。


「その力を理解していないのか。お前は」

悪魔は理解できていないような表情をしている。この男がここまで動揺しているのはここまでの戦闘で初めてかもしれない。

「ああ、していない。だから教えてくれないか?」

教えてもらえるとは微塵も思っていないが、聞けるのだとしたら聞いておきたい。

「貴様が理解していないのだとしたら好都合だ。教える義理もない」

やはり、教えてくれないらしい。それどころか、知らないことが相手にとって好都合である情報なのか。まあ、教わらなくても問題はない。


「……しかし、気が変わった。冥土の土産にでもするといい」


……俺は、驚きを隠すことができなかった。

確実に、悪魔側が不利になるような情報、それを俺に教えてくれるというのだ。

案外、悪魔というのは名だけで悪魔では無いのかもしれないな。


「まず、お前は法力というものを理解しているか?」

悪魔の問に、俺は首を横に震る。

「魔力なら知っているが、法力ってのは知らないな」

夢の中の俺は法力という名を使っていたが、実際の俺はそんなもの知らない。

力が付く名称なら、魔力というものを知っているが、逆に言えばそれしか知らない。

悪魔は法力を知っているのだろうか。

「なるほど、お前達人間の認識はそこまでか」

悪魔は何か呆れたように呟いてから、俺に言葉を向けた。


「お前達の認識は根本から間違っている」


根本から、違うだと?まさか俺が教わったものが最初から全て違っているとは思わなかった。

「お前達の体に流れているのは魔力ではなく、霊力という力だ。そして、お前達がしている俺達の真似事は霊法という技なんだ」

霊力、霊法?先生達が使っていたのは魔法ではないというのか?常識を根本から塗り替えられる情報量に頭が混乱していく。

「そして法力というのは、魔力や霊力などの総称だ。つまり、魔力や霊力は法力の一種ということだな」


「質問させてくれ」

彼の言葉が区切られたところで、俺は声を上げる。

悪魔は無言で、顎を俺に向けて一瞬突き出してくる。これは、了承と受け取っていいのだろうか。

「その法力というのは、何のためにあるんだ?」

魔力……いや、法力というものはこの世界に入るまで聞いたことがなかった。

正確には、アニメや漫画の世界で見たことはあったが、現実ではなかった。

そんな法力の重要性を俺は理解していない。まだ、その存在を詳しく知らない。

「そうだな。法力という名すら知らないお前達が知るわけがないか」

また呆れたような顔をしながら、語り始めた………





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る