第一章四節 ルーキー
霊を継ぐ者の力
さて、親父からバトンタッチをしたわけだが。正直勝ち目が無いんだよな。
先程起きたことを思い出しながら、失笑する。あれからどれほど経ったのかは分からないが、俺はこいつの魔法で一度落ちている。
「ふん、よく生きていたな」
男は特に驚く様子もなく俺を睨む。
「よく言うぜ。生かすように調整しといて」
先程の魔法、あれは俺を確実に仕留めることの出来るものだった。出来るはずだった。
しかし、俺は生きている。あの時点で俺の身に何かが起きたという可能性もあるが、それは夜空に浮かぶ星々の中から特定の太陽系外惑星の周りを回っている衛星を一発で見つけるのと同じくらいの確率だろう。
……つまり、わざと殺さないように威力を落とした。ということが一番有り得る。
「それにしても、良いのか?」
目の前の悪魔は何故か動かない。お喋りが好きなのだろうか。
「先程の一瞬で分かっている。お前と俺は次元が違う。あんな初歩的な魔法で戦線を離脱したくらいだ。そんなお前が一人で戦えると思っているのか。ということだよ」
確かに、コイツから見たら俺は雑魚なのだろう。ていうか、実際俺は弱い。
しかし、何故だろうか。先程まで圧倒的な威圧感を放っていたコイツのことを怖いと思わなくなった。強敵だとは思うのだが、恐怖は無い。どこか、勝てると思ってしまう。
……これは、あの夢の影響だろうか。
「んな雑談はどーでもいいだろ。はやくやろうや。」
会話を無理やり断ち切る。別に話していてもいいのだが、コイツと話すこともないしな。そんなことよりちゃっちゃと終わらせたい。
「蛙の子は蛙、ということか。親に似て態度が悪いものだ」
悪魔は乾いた笑みを浮かべる。コイツは本当にお喋りが好きなようだ。
……と考えていると、変な気を感じた。これは、何度か感じたことのあるものだ。主に実技の授業中、担当の教師が魔法を打つ時だ。
次の瞬間、悪魔の体の後ろが紫に光った。
「─────」
短く何かを呟くと、先程のものとは違う紫の剣が飛んできた。量は先程の球よりも多い。あの剣から出ている圧も全く違う。これは当たると死ぬやつだ。
……しかし、不思議と俺の足は動いていなかった。脳はこの攻撃を避けたいと感じた。だが、足は避ける必要がないと考えたらしい。
剣を腰のあたりで構え、細く息を吐く。
これを斬れるかは分からないが、逸らすことくらいは出来るだろう。
「シッ!!」
全て弾くのは速度的にも無理だ。だから、見極めて大きなダメージを負うであろうものだけ斬る。能力は、極力使わない。
現状三回までなら使用可能だと分かっているが、それ以上はどうなるか分からない。決戦のように死なない戦いなら良いのだが、これは違う。死と隣り合わせの戦いだ。
一本目、俺の中心、
先程の球のように硬く、斬れなかったが、まあ逸らせられただけマシだろう。
まだ飛んできているので、当たりそうなものを的確に逸らしていく。
「……お前、何があった?」
最後の一本を躱すと、悪魔は困惑の声を発した。俺はこの隙を逃さない。これはアニメや漫画ではない。戦いは一瞬の出来事だし、語り始めるようなこともない。あくまで現実なのだ。悪魔と対峙してる今は非現実的だが。
舌を思い切り噛む。世界は減速する。
一歩踏み込み、気づく。
……遅い。
いや、違う。これが正しい感覚だ。
あの夢では百倍という有り得ない加速をしていた。……しかし、実際の俺はその十分の一しか加速しない。これが、現実だ。
加速後の時間で一秒、限界まで近づいても奴の元には辿り着けなかった。
「くっ!!」
世界が俺に追いついた。その頃には俺と奴の距離は半分以上も縮んでおり、不意をついた形なので動揺し反応が遅れていたことも相まって俺の剣は届きかけたのだが、寸前で受け止められてしまった。
「……お前も能力持ちか。しかも、あの男と同じと見た」
あの男と同じ……ていうことは親父もコイツに能力を見せたのか。
「ご想像におまかせするよ」
これは、ほぼ正解という意だ。
俺は親父とは違って『加速』だが、まあ『変速』だとしても間違いではない。
「ふん、同じ手が通用すると思うなよ。小僧」
悪魔は紫の剣を再度展開する。またアレを飛ばしてくるのか。意外と大変なんだぞ。
心の中で愚痴りながらも、それを出してしまうと不利になるので言わないでおく。
「そりゃ、どうだろうな」
代わりに、笑い飛ばしておく。ひとつだけ言えることは、俺と親父の戦い方は全くと言っていいほど別物だ。
親父の戦闘は見たことがないが、性格的にそんな気がする。あの人が手の内を全て見せたとは思っていないので、その点も踏まえてまだ勝機はある。
舌をべーっと出す。ここから能力も混ざり始める。奴も手の内を見せてくる。俺も同じだ。
……戦闘は、更に加速する。
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