霊継バトンタッチ
力が抜けて膝から崩れ落ちる俺をイシフィアは見逃さなかった。
崩れた体勢から、片手を地面について一瞬足を畳んだ。瞬きを一回してみれば目の前に足が現れ、蹴り飛ばされてしまった。
力が入らないせいで受けることも避けることも出来ずに、直撃してしまった。
……あーくっそ、なんでこのタイミングなんだよ。もうそろそろ限界なのは分かっているから、まだ少しだけ待っていてほしいと思う。切実に……
愚痴りながら宙を舞う。悪魔の力で蹴り飛ばされたので、結構な距離吹っ飛んでしまった。飛びながら少し周りを見れば、大体戦闘が始まった地点まで来たと思う。
「何が起きたのか知らねえが、不幸だったな」
ゆっくりと、イシフィアが近づいてくる。どうやらアイツも俺に何かがあったということに気づいたらしい。その顔は勝ち誇った顔ではないが、無慈悲な顔ではあった。
「っち、うるせえな。もう歳なんだから少しくらい休ませろ」
仰向けで倒れながら、笑い飛ばす。話す余裕はあるのだが、体は一切動かない。
「……そうか。じゃあ、ゆっくり休め」
俺の真横にまで来たイシフィアは、顔を一切変えることなく紫の剣を顕現させた。
「はは、出来れば数時間後に目が覚めたいんだが」
少しでも冗談を言って、時間を稼いでおきたい。……多分後数分だろうから。
「ふん、貴様が目覚めることはない」
断言されてしまった。あ、これまずいかもしれない。後数分とか言ってられなくなっている。コイツ、今すぐにでも殺す気だ。
「それじゃあな」
短く言葉を切って、イシフィアは剣を俺に向けて下ろし始めた。
きっと一秒すらかからない時間だろう。しかし、俺にはとても遅く見えた。
……コンマ一秒が、一秒に見えてしまうほど世界が遅く見える。
あはは、長い人生だなあ。本当に………
魔力で出来た紫の剣はゆっくりと俺の心臓に近づいてきて……
そして、
そして…
そして……
俺の体を貫くことは、無かった。
金属音が鼓膜を振動させた。痛みを感じることも、意識が飛ぶことも、景色が赤く染まることも、何も起こらなかった。
よく見ると、紫の剣が何かに阻まれていた。……それは細見の剣で、ついさっき見たものだった。それに加えて、俺の体の真横、イシフィアがいるところとは反対側に人影が立っていた。
「――ッ!!お前は……」
イシフィアはそれを認識するとバックステップで下がった。
どうやら、間に合ったらしい。首の皮一枚繋がったってやつなのだろうか。
「なーに寝転がってんだよ。ジジイ」
その人影は俺を見るなり吐き捨てた。どこか雰囲気がとげとげしくなったかもしれない。……気のせいだろうか。そうだと良いな。
「はは、だから歳だって言ってんだろ」
苦笑して、手を前に差し出す。人影は、その手を見て少し考えた後、笑って叩いた。
「寝とけ、バカ親父」
その人影……俺の息子である霊継風斗は俺を跨いであの悪魔と対峙する。
俺はそれを眺めながら、ゆっくりと目を閉じていくのだった。
がんばれよ、風斗。
心の中で、激励を送りながら………
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