通うはずだった地、少女は現状を知る

「……えっ、まだ一ヶ月?」

一度家に帰って服を着替えて武器を回収した後、私は晴嵐さんと共に軍事学校へ向かっていた。移動中の車の中で、私は晴嵐さんの話に驚きを隠せなかった。

「そう。今戦っているうちのひとりは、君と間違えられて入った子なんだよ」

間違えられて入った人、名を霊継風斗というらしい。あの陽王の子供だとか。

確かに、それなら間違えられて入れられたとしても納得だ。何が起きたのかは知らないが、きっと彼の息子であるなら入ることになっても当然だろうという判断が下されたのだろう。私が間違えられていることに気づかれなかったのが不満だが、まあ今気にすることでは無い。


それにしても、入学から一ヶ月でこんな事になるなんて、彼は不幸だ。

私達ですら受けたことのないS級任務、悪魔討伐に巻き込まれるなんて。今生きているのかどうか分からないが、生きているのだとしたら相当な逸材だろう。

「良いのですか、初心者に戦わせるなんて」

単純に、気になってしまった。晴嵐さんレベルの人間であれば簡単に理解出来たはずだ、例え彼が戦場に出たとしても足でまといにしかならないということに。

「まあ、本来であれば行かせないよ」

晴嵐さんは不服そうな顔をする。彼も校長だ。たとえ軍事学校が生徒の命が定期的に砕け散る場所だとしても。晴嵐さんは生徒のことが大切なのだろう。心配なのだろう。

でも、と彼は言葉を続ける。

「妖都のバカが連れていくと言ったんだ。それに従う以外の道は無いよ」

妖都……霊継妖都という存在はそれほど発言権が強いのだろうか。軍事学校の校長で、先の戦で大活躍した一人よりも陽王というものは強力なのだろうか。

「それに、アイツが言っていたからね」

一拍置いて、晴嵐さんは言う。


「『うちの息子は強い』とね」


その言葉を発する晴嵐さんは、苦笑していた。だが、その苦笑は彼との長い関係による深い信頼からくる呆れだった。

その顔を見た私は、晴嵐さんと霊継妖都の間にある関係がとても深いもので、少し羨ましいとも思ってしまった。

「妖都さんのこと、信頼してるんですね」

彼を信頼していなかったら、初心者に任せることなどしない。どんなことでも絶対に止めたはずだ。

「そうだね、信頼はしているよ。長いしね」


さて……と言葉を置いて、彼の顔は真剣なものとなる。それに気づいてから窓の外を見ると、そこには瓦礫の山が広がっていた。


「雑談は終わりだ。覚悟はいいかい?」

硬い顔になった晴嵐さんからの問に、私はゆっくりと首肯する。

「勿論です。いつでも、いけます」


緊張は……無いとは言えない。

なんせ私も初めてなのだ。悪魔と戦うのは。

しかし、今までと同じ通り落ち着いている。問題は無い。調子も悪くない。大丈夫だ。


……いこう、久しぶりの戦場に。


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