古の記憶、生まれ育った村

地に足がついているはずなのに、浮いている感じがする。というより、この世界に俺という存在が居ないという感じだ。

目を開けると、俺の眼に光が差し込んで周りが鮮明になっていく。


「……へ?」


視界に写った光景は、どこかの村だった。

先程まで瓦礫の山に囲まれていたはずなのだが、ここはどこなのだろうか。

「おーい、何してんだー」

辺りを見回して頭の中を整理していると、突然そんな声が聞こえてきた。

彼の名は……なんだっただろうか。

誰なのか、どういう人物なのか、関わりはどれくらいなのかは分かるのだが、名前の部分だけがモヤがかかったように思い出せない。

「すまんすまん、すぐに行く」

俺はとりあえず小走りでソイツの近くへ向かう。灰色の髪の毛に、少しつり目の少年。彼は少し汚れている道着を着ている。

近くに行ったところで名前を思い出せない。

確か、これから修行に向かうところだったはずだ。そしてここは俺たちが生まれ育つ村。

記憶は曖昧でどこにあるのか、誰が住んでいるのかなんて分からないが、俺生まれて育った村なのだ。


「……来たな」

いつものように村の外れにある空き地に着くと、男が二人座っていた。

「来たぞ。親父、師匠」

その一人はつい最近も見た人物だった。明るい色の抜けた髪色で短髪の男、俺の親父だ。そして隣に居るのは、俺の師匠だ。名前は、なんだっただろうか。彼の名前もまたモヤがかかってしまったように思い出せない。

ひとつだけ分かることは、俺の技術の大半はこの人の教えによって構成されており、俺の強さはこの人によって作られている。それほどこの人は俺にとって大きな存在であったということだ。

「それじゃあ、始めようか」

親父は隣にいる男に向かって声をかける。男は無言のまま頷いて、俺の方を見る。

「分かりました。ついていきます」

俺は珍しく敬語を使う。俺は師匠には必ず敬語を使っているのだ。

俺の言葉を聞いた男は立ち上がり、姿を消した。俺は視界に頼ることなく僅かに漏らしてもらっている魔力を頼りに男を追った。


「今日はどうするんですか?」

息を切らしながらついていくと、ある場所で師匠は立ち止まった。

師匠の近くに寄りながら、質問をする。俺達の修行は毎回師匠の考えた内容を俺がこなすという形式を取っている。同じことをする日もあるが、基礎練習はこの修行の時間以外でやっているので、この時間に行うことは毎回実践訓練か応用訓練なのだ。

師匠は少し悩んだ後、俺から少し離れて構えを取った。その目は、俺を見つめている。

「今日は組手の日ですか……」

小さく呟きながら、俺も構えを取る。

武器は、使わない。師匠が武器を持っていないので今回は素手の組手なのだろう。

師匠の動向を探りながら、心の中でカウントを始める。三秒後、戦闘が開始するだろう。


スリー、ツー、ワン……ゴー!!


俺は地を蹴って師匠に急接近する。

師匠は動かない。顔はピクリとも動かない。全く、毎度の事ながら戦いづらい人だぜ。


そして、俺は拳を繰り出す。その拳は、吸い込まれるように師匠の顔に伸びていき……



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