戦闘。悪魔の襲撃者

「ほう。よく止めたな」

悪魔は感嘆のような声を漏らす。

「息子なんでな。絶対に守んなきゃいけねえんだよ」

ニヤッと笑って、言葉を続ける。


「じゃねえと、母さんに怒られちまう」


「はっ、人間特有の家族愛ってやつか?」

悪魔は嘲笑う。それに親父も笑い返した。

「いいや、お前らの大好きな恐怖だよ」

よし、これは母上に報告しよう。親父をよく見ると少し汗が滲んでいた。

「……お前達、家族というのではないのか?」

「お前らには分かんねえだろうな。夫ってのは妻の尻に敷かれるもんなんだよ」

親父、全然かっこよくないぞそれ……

という言葉は言わないでおこう。親父の尊厳のためにも。いや尊厳なんてないか。

「ふん、人間というものは分からんな」

一度紫の剣を薙ぐ。すると紫の球が五つ作られた。これも攻撃魔法の一つなのだろうか。

「気をつけろ風斗、これはレベルが違うぞ」

と親父が言った瞬間、その球が全て飛んできた。

球が動き出したのを見た俺達は、俺が右で親父が左と綺麗に分かれた。ある程度直線で飛んできていた球は途中で分かれて追尾してきた。親父の方が一つ球が多い。

悪魔には俺と親父の実力差がバレているのか。まあ先程の攻防で分かったのだろう。

少し走って消える気配がなかったので、剣を抜いて振り返る。

速度はレーザーに比べて遅い。それにプロトは細身なので他の剣と比べて軽い。これなら俺でも切れるはずだ。

「グゥ……」

剣が球に触れた瞬間、刃が通り抜けることは無かった。それどころか押し返されている。

その間にもうひとつの球が接近していて、でも俺は球を切れずにいるため動けない。

これからどうなるかという予測は簡単で……


俺は痛みと煙に包まれた。


「風斗ぉぉぉ!!!」

遠くから、親父の声が聞こえる……



◇◇◇

Father's side


くっそ、やらかした。あの場で全部止めれば良かった。完全に俺の判断ミスだ。

飛んでくる魔法を持っているナイフで切り捨てながら、悪魔を睨む。

「ふん、やはり小僧は弱いな」

悪魔は余裕の顔をしていた。

「黙れよ、ガキが」

俺は悪魔に吐き捨てる。その余裕の顔を見るとイライラしてくる。

「ガキだと?その言葉はお前の何倍も生きている俺に言っているのか?」

意味がわからない、という顔をする。

そんな奴の問いに答えることはなく、悪魔に向けて突進する。


金属音が、鳴り響く。俺のナイフと、悪魔の剣がぶつかったのだ。

「何の変哲もないそのナイフで俺に攻撃を当てられると思っているのか?」

悪魔の声は無視する。こいつの話をいちいち聴いていたらイラつきすぎて禿げそうだ。

少しナイフを傾けて俺の右側に剣を逸らす。最後まで振り切られる前に相手の手首を掴み、それから人差し指を通してある輪っかを使ってナイフを返して相手の腕の奥に刃を置きこちらへ向ける。間髪入れずにナイフを引いて手首、脇腹の順に切って最後に首……というところで避けられてしまった。


俺のナイフは、所謂カランビットナイフというやつで、カーブを描いた特殊な形をしていてグリップの先端に輪っかがついている。

そこに人差し指を通して逆手の状態で持つのが俺の基本的な構えだ。


「ふん、意外と動けるらしいな」

よく見ると先ほど与えた傷が塞がっている。治りが早いこって、魔族のウザイところだ。

魔族という存在は、根本的に人間とは作りが違う。人間のように細胞の塊ではないのだ。

魔族は、魔力で出来ている。魔力がエネルギーとかそういう話ではない。法力生命体ほうりょくせいめいたいといって、身体そのものが魔力の塊なのだ。そのため傷がついても簡単に治せるし、なんなら魔力を使って色々すれば身体を増やすことだってできる。

なので、普通の人間であれば魔族には絶対に勝てない。法力ほうりょくという強大な力に勝つには同じ法力しかないのだ。

……ただその理論でいけば今の人間が勝つことは不可能だろうな。絶対と言えるほどに。


「めんどくせえなぁ……ちくしょう」


つい後頭部を掻きむしってしまう。

「お前、名前は?」

ふぅー、と長い息を吐いて、悪魔に訊く。

「そうだな、冥土の土産にでもくれてやろう。

我が名は、精選擊伐部隊せいせんげきばつぶたい隊長……イシフィア・グラニーだ」

イシフィア……聞いた事のない名前だ。

それに魔力量からして中級魔族といったところか。

「そうか、そういえば俺も名乗っていなかったな」

一拍置いて、自身の名を明かす。


「霊継妖都、『陽王』と呼ばれている」




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