崩壊する拠点、少年は現状を知る

 視界に映るのは、瓦礫の山。たまに赤色が混じっていたり人が倒れていたりする。

 勿論、息は絶えている。正直入学早々こんなことになるなんて思ってもいなかった。

 校舎が殆ど青空教室になっているおかげで臭いは逃げてくれているが、それでも血の臭いがキツイ。何度胃液が逆流してきたのか。

そろそろ喉が焼けただれるぞ。まじで。

「そういえば、みんなは何処にいるんだ?」

 前を走る親父に問いかける。そこら辺から銃声や爆発音は聞こえるのだが、人影を見ていない。これほどまでに被害が出ているのだから、会わないなんてことあるはずないと思うのだが……

「今、比較的軽傷な第五校舎が防衛拠点となっている。大体そこに集まっているはずだ」

 第五校舎……つまり結構奥の方まで攻められているということになる。

 ウチは第一から第六校舎まで存在する。

 そもそも中央軍事学校、正式にいうと『日本国立中央軍事高等専門学校』は山の中にある。どうやら今も居るこの陽隠山ひがくれやまそのものが敷地らしい。そんなバカ広い土地使ってやっている事がドンパチという訳だ。

 そしてそのバカ広い敷地に様々な施設が立てられている。屋外訓練場、学生寮や先程まで俺たちがいた闘技場などなどだ。

「第五校舎、少し寄ってもいいか?」

 闘技場からだと目的地までに第五校舎を通る。そこで武器を調達しておきたい。

「あーそうか。お前今武器無いか」

 親父は許可を出してくれる。流石に、ゴム弾と刃潰れナイフで戦うのはキツイからな。


 大きめの山ということもあってそこそこの長距離を移動した。ようやく校舎が見えてきたところだ。

 第五校舎はまだ校舎としての形を保っていた。先程見てきた瓦礫の山と比べたら綺麗な部類に入るであろう。人も見える。

 正直死ぬほど疲れた。舗装された道はあるが、そんなところ堂々と通れるわけが無いので木々を抜けて行くことになっている。地面悪いし木は邪魔だし体力の消耗が激しい。

「俺は報告してくる。その間に準備しろ」

「了」

 俺達は短く言葉を交わし、それぞれの方向へ走る。武器庫に弾あるだろうか。出来れば近接武器も欲しいのだが……


 第五校舎は俺がよく居る第三室内訓練場がある場所なので、ある程度のことは分かる。

 何度か利用した武器庫へ駆け込み、使えそうな武器を探す。必要なのは弾と近接武器だ。

 弾はすぐに見つかった。どうやら実弾の使用は許可が要るらしいのだが、まあ事後報告で良いだろう。後は近接武器なのだが……


「あなた、そこで何をしているの?」


 ビクッと、身体が跳ねる。心臓が暴れている音が体に響く。……びっくりした。

 ゆっくりと振り返ると、そこには謎に白衣を着た緑髪の女性が扉にもたれながら立っていた。体で隠れて見えないが、左手に何かを持っている。あれはなんだろうか。

「えーっと、少し武器を探しに……」

 俺は苦笑いを浮かべながら説明する。別に悪いことではない。今から戦うのだから。

「でも、許可が要るでしょう?ニュービー君」

 ニュービー……?俺のことだろうか。いや今はそんなことどうでもいい。

「許可は取っています。霊継妖都先生から」

 親父の名前を出してみる。まあ許してくれるだろうきっと。あの人の指示であることは間違いではないしな。

「霊継さんから……なるほど、それなら良いわ」

と彼女は頷いた後、左手に持っていた何かを投げた。俺は反射的にそれを掴んでしまう。

「これは……?」

 掴んだものは、鞘に入った剣だった。

 鞘から抜いてみると、中身は細身で諸刃の片手剣だった。つばにあたる部分には銃のトリガーのような何かと、グリップの部分にボタンのようなものが付いていた。

 試しにボタンを押してみると、柄頭の部分が落ちたと思えば途中で引っかかったように止まり、何かを入れることが出来るようになった。

 何気に武器を目にする機会が多くなったが、こんな武器は見たことが無い。

 俺は困惑気味にこれを投げてきた人を再び見る。すると彼女はなぜか自慢げな表情をしていた。


「これはギブズウェポン。その試作品だよ」



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