創造神話。その一片を担う者共

「悪魔……?」

 親父の発した言葉を小さく繰り返す。

「風斗には昔話したことあるだろ」

 親父が俺に話を向けてきたので、縦に首を振る。確かに数年前に聞いた記憶がある。


 悪魔、俺達人間の間ではよく「悪を擬人化した存在」と言われることが多いだろう。

 俺の聞いた話だと、その認識は間違ってはいないが、合っているというわけでもない。

 悪魔……及び魔人とは、この世界とは違う世界である地界ちかいに生息する生物で人間と同等以上の知能と人智を超える力である『魔力』を持つ存在だ。

 創造神話と呼ばれる世界が生まれた頃の話で、世界を創ったとされる三人の創造神……通称三創神さんそうしんの一体が作り出した生物とされ、太古より人間と争いを続けていたらしい。

 だが、それは現在の人々の記憶から消え去るほど昔の話だ。


「でも、それは架空の話じゃないのか?」

 正直その話を聞いた時から今までずっと作り話だと思っていた。創造神話とか三創神とか現実に有り得るわけが無いだろうと考え、忘れかけていたくらいだ。

「架空の話だったらどれほど良かったか。残念ながら現実の話だ」

 信じられない、とは思わない。

 きっと数ヶ月前の俺であれば信じていないだろうが、最近は有り得ないと思っていた事象に直面することが多すぎる。

 そのせいで今回の話ですら有り得ないと切り捨てられない。

 俺自身が能力を持っていたこと、先生や先程のアレが使ったような魔法と呼ばれる超常現象、そして何より俺がこの場所に……軍事学校という場所に居ることが『有り得ない』と考えられるような事実が実在すると証明してしまっている。

「その、悪魔ってのはどれくらい強いんだ?」

 現状悪魔が存在することの真偽だとか神話がどうこうだとかよりも、敵となる存在の力量が何よりも大切だろう。

「悪魔は人間には扱えない魔力を持つ。

その力は人智を超えると言われており、生身の俺たちじゃ太刀打ち出来ないほどだろうな」

 やはり、悪魔というのは人間とは基のスペックが違うのだろう。困ったものだ。

 親父は「だが」と言葉を続けた。

「俺達にだって人智を超えた力がある」

 ニヤリ、と笑う親父。

 俺達の持つ人智を超えた力……多分だが、能力の事だろう。確かに、あれもまた超人的な力だ。

「正義には悪いが、今回は俺達親子で戦うことになるだろうな」

 その言葉に正義は唇を噛んだ。

 直球の戦力外通告、その悔しさは計り知れないだろう。しかし回りくどい言い方よりはマシだろうし、彼の場合こっちの方が割り切れるはずだ。

「風斗、今回は今までとは違うからな。

気合い入れていけよ?」

 親父は真面目な顔で俺を見る。そんな親父に俺はニヤリと笑って……


「おう!」


と返事をした。そして、俺たちの視界に校舎が映る……予定だったのだが。そこには想像以上の惨劇が広がっていた。

 校舎のような物はあるが、それは瓦礫の山で、ところどころ赤く染まっている。

「……想像、以上だな」

 正義がポツリと言葉を漏らす。

「ったく、話と違うぞ……あんにゃろお」

 親父が後頭部をポリポリと掻く。その顔は少し呆れているような気がする。正直俺も少し笑えてしまう。

 正義の言った通り、想像以上だ。こんなにも学校をボロボロに出来るやつとこれから戦うなんて、少し不安だな。

 横目で正義を見ると、彼も顔が硬い。

「そんじゃあ、俺と風斗は親玉の所へ行く。

正義は他の奴らと合流して防衛だ」

 これからの行動を指示した親父はこちらへ振り返る。その顔は、今までのどこでも見た事がないような……冷たいものだった。

そして発する。作戦開始を宣言する一言を。


「気張れよ」


 声が空気を震わせ、風斗達の耳へ届く。

 鼓膜が震えた瞬間。風斗と正義は鋭く息を吸って、緊張した体を無理やり動かすように、後ろに下がりそうになる自らの体を鼓舞するように……


「「了解っ!!」」


喉を震わせた。

 始まる。永く苦しい激闘が幕を開ける。

戦場を駆ける最後の弾丸は、まだ弾倉の中。



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