少年は無事、その他は惨事


「今この学校は……壊滅状態だ」


短い一言、それでも俺達の目を飛び出させるには十分すぎる言葉だった。

「壊滅だと……ここが?」

正直、俺には理解出来ない。滞在期間が短い俺でも分かるほどにこの学校のセキュリティは強い。戦力増強の要なため当然のことだ。

そしてこの学校に滞在する戦力も日本でトップクラスと言っていい。

そんなここが壊滅状態にあるだとか、にわかには信じがたい話だ。

「ああ、校舎はほぼ全壊。重傷者も多数で………死亡者も出てしまっている」

親父は俺達の前を走っているため、顔はよく見えないが……なんとなく歯を食いしばっているのが分かる。きっと、親父も戦っていたのだろう。そして、目の前で人の命が散っているのだろう。

「では、なぜ俺達は無事なのです?」

正義が、問う。当然の疑問だろう。

これほど攻撃を受けているのにもかかわらず、俺達は全くその事を知らなかった。気づきもしなかったのだ。防御魔法が貼られていようとも建物にダメージが入れば多少なり違和感を感じると思う。しかし、俺達は全く攻撃を受けていると分からなかった。

「それは、きっと何か理由があるのだろうな」

親父は不鮮明な答え方をした。

多分、親父も理解わかっていないのだろう。敵の考えなんて分かるわけないしな。

「ひとつだけ分かるのは、お前達も攻撃を食らっていたということだ」

次の言葉で親父は断言した。

……まあ、きっとそうなのだろう。防御魔法や正義に憑いた謎の敵など現状攻撃以外に説明がつかない。

「これは俺の予想なのだが、きっとお前達のどちらかが標的だったのだろうな」

俺達のどちらかが……標的?どうして俺達を狙うんだ?

「なんで俺達を?」

「んなもん知るわけねえだろ」

と、すぐに返された。そりゃそうか。

でもなぜ俺達なのか。疑問が残り続ける。

俺はこの世界に入ってすぐの新米で能力持ちだが活用も出来ていない人間だ。

そして正義は確かに強いが、これといって標的にするほどの存在では無い気がする。

彼には悪いが、正義は能力も持っていないし剣術も先輩とかの方が強いだろう。

……つまり、二人とも狙う理由がない。

「質問、いいですか?」

俺が思考の海に潜り込んでいると、正義の声が聞こえてきた。

親父は首を縦に振る。その動きが見えると正義は言葉を続けた。

「決戦の最中。黒くて、暗い何かが俺の心に入り込んで支配していきました。あれはなんなのですか?」

黒くて暗い何か……か。多分だが俺が相手したアレのことだろう。確かに俺も気になる。

親父は記憶の棚を探るように少しの間黙りこんだが、すぐに口を開いた。


「多分だが、それは悪魔だろう」


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