第一章三節 悪魔

雰囲気一変。真面目な彼

「……あれ。なんでお前無事なんだよ」

 落ちてきた影は着地して早々にそんなことを言ってきた。

「まず無事を喜んでくれよ」

 なんで、じゃねえだろうが。無事じゃない方が良かったのかよ実の息子が。

「……なんか俺の出番が無くなった気がする」

「気のせいだろ。元々出番も何も無いわ」

というツッコミはしないでおこう。父上の威厳のためにもな。

「言ってんぞお前」

 やべ。無意識のうちに口に出てた。

「そんなことより、お前達まだ動けるか?」

 空気が一気に冷める。親父のこんな真面目な顔は初めて見た。やはり外で何かあったということだろうか。

「動けるけど……正義は?」

「当然。動かせられるに決まっている」

 親父は小さく頷いてから、「ついて来い」と言って軽々と壁を乗り越えた。

 ……この壁四メートルはあるんだけど?

「何してんだ。早く来い」

 闘技場を去ろうと一歩踏み出した親父は、上がってこない俺達に呆れている。

「いや、普通上がれないんですけど」

 正義が恐る恐るといった感じで物申す。

「あぁ〜……気合いで上がってこい」

 いや無理なんですけど。と心の中でツッコミをしていると親父は走っていってしまった。あの人本当に人の話聞かないな。

「行ってしまったな」

 正義はポツりと呟く。俺はそんな彼の背中を思いきり叩く。

「んじゃねえよアホ。はよ走るぞ」

 そして出口へ向けて疾駆する。

仕返しなのか正義に殴られそうになったが、突然走り始めたことで回避ができた。

 正義は空振った為少し体勢を崩したが、すぐに立ち直り走ってついてくる。

 そうして俺達は先に行ってしまった親父を追って、闘技場内を全力疾走するのだった。


◇◇◇

 闘技場の出入口に近づくと、その壁際にひとつの影が立っていた。

「遅いぞ」

 その影は少し不機嫌になっていた。

俺は影を見つけるとそれに向かって加速し、斜め前に飛んで飛び蹴り──所謂ライダーキックを繰り出す。……が簡単に止められた。

「おい、なんで急いでるんだ」

 止められるところまでは想定していたので、着地してすぐに親父の二の腕を叩く。

「話は走りながらする。早く行くぞ」

 親父は正義が近づいてくるとすぐに走り始めてしまった。少し、正義に同情する。

一瞬正義の顔を見たが、先程の疲労が残っているのか少し辛そうな顔をしていた。

 俺ら、さっきまで戦っていたのに……なんで今度は追いかけっこが始まっているんだ。今日はとても疲れる一日だな。入学初日並みだ、と率直に感じるのだった。

 そして俺は外に出て一歩目で気づいた。普段とはどこか雰囲気が違うということに。

ここに来てからあまり日は経っていないのだが、それでも気づくことができるくらいには雰囲気が違っていたのだ。

 勿論俺が分かるということは正義にも分かるわけで。彼も眉を寄せている。親父は顔を変えずに似合っていない真面目な顔のまま。

 一体、何が起きているというのか。と考えていると、親父は口を開いた。

「説明するぞ。今この学校は……」

 そして、次の瞬間。俺と正義は目を見張るような言葉を聞くこととなった……


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