第一章三節 悪魔

雰囲気一変。真面目な彼

「……あれ。なんでお前無事なんだよ」

落ちてきた影は早々にそんなことを言ってきた。

「まず無事を喜んでくれよ」

なんで。じゃねえだろうが無事じゃない方が良かったのかよ実の息子が。

「……なんか俺の出番が無くなった気がする」

「気のせいだろ元々出番も何も無いわ」

というツッコミはしないでおこう。父上の威厳のためにもな。

「言ってんぞお前」

やべ。無意識のうちに口に出てた。

「そんなことより、お前達まだ動けるか?」

空気が一気に冷める。親父のこんな真面目な顔は初めて見た。やはり外で何かあったのだろうか。

「動けるけど……正義は?」

「当然。動かせられるに決まっている」

親父は小さく頷き、「ついて来い」と言って軽々と壁を乗り越える。

……この壁四メートルはあるんだけど?

「何してんだ。早く来い」

闘技場を去ろうと一歩踏み出した親父は上がってこない俺達に呆れている。

「……いや、普通上がれないんですけど」

正義が恐る恐るといった感じで物申す。

「あぁ……気合いで上がってこい」

いや無理なんですけど。と心の中でツッコミをしていると親父は走っていってしまった。

「行ってしまったな……」

正義はポツりと呟く。俺はそんな彼の背中を思いきり叩く。

「んじゃねえよアホ。はよ走るぞ」

そして出口へ向けて疾駆する。仕返しなのか正義に殴られそうになったが、突然走り始めたことで回避ができた。正義は空振った為少し体勢を崩したがすぐに立ち直り走ってついてくる。


闘技場の出入口に近づくと、その傍にひとつの影が立っていた。

「遅いぞ」

その影は少し不機嫌になっていた。

俺は影を見つけるとそれに向かって加速し、斜め前に飛んで飛び蹴り……所謂ライダーキックを繰り出す。しかし簡単に止められた。

「おら、なんで急いでるんだ」

止められるところまでは想定していたので、着地してすぐに影――親父の二の腕を叩く。

「話は走りながらする。早く行くぞ」

親父は正義が近づいてくるとすぐに走り始めてしまった。少し、正義に同情する。

俺ら、さっきまで戦っていたのに……なんで今度は追いかけっこが始まっているんだ。今日はとても疲れる一日だな。入学初日並みだ。

そして俺は外に出て一歩目で気づいた。普段とはどこか雰囲気が違うということに。

ここに来てからあまり日は経っていないのだが、それでも気づくことができるくらいには雰囲気が違っていたのだ。勿論俺が分かるということは正義にも分かるわけで。

彼も眉を寄せている。……が親父は顔を変えずに似合っていない真面目な顔のまま。

……一体、何が起きているというのか。と考えていると、親父は口を開いた。

「説明するぞ。今この学校は……」

そして、次の瞬間。俺と正義は目を見張るような言葉を聞くこととなった……


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