助けてーーー!!!パパーーーーン!!!!!

「うし……いくか」

 呆れた顔で見る正義まさよしほおって大きく息を吸う。そして、誰も居ない空間に向かって……


「助けてーーーーー!!

パパーーーーーーーーーーーン!!」


……何してんだ俺。

 虚空に吸い込まれていった俺の声を聞き届けつつ、まるで賢者のような気分になる。

「馬鹿なのか。お前は」

「うるさいぞソコ」

 ボソッと呟く正義の事は絶対に見逃さない。上半身だけ後ろに振り向き指をさす。

「人に指さすな」

 正義はため息をつく。

どうしてこんな事をしたのか。ということなのだが……これはとても簡単な話だった。


◇◇◇

 話は、数分前の会話に戻る。

正義の名を聞いてから、諦めてまた脱出する方法を考え始める。

「これ、本当になんなんだ?」

 壁際に寄って紫の壁をナイフで叩く。すると硬い何かに当たる感触の直後、ナイフが弾き飛ばされた。

「多分だが、それは高度な防御魔法だ」

 正義はゆっくりとこちらに歩いて来ながら端的に伝える。その顔は少し呆れていた。

……知ってました〜。俺だってそれくらいは分かります〜。先生に散々しごかれてきたんだから。だからそんな顔しないで。

「お前じゃ壊せないのか?」

 一旦彼の呆れ顔の事は置いておいて、別の質問を繰り出す。これで壊せたら楽なのだが。

 勿論アサシン科の俺には壊せないと思うので、正義に聞いたのだが……奴は無言で首を振った。横向きに。

「まじか。どうすればいいかな」

 後頭部をポリポリと掻く。コイツの力で壊せないのであれば力ずくでの破壊は不可能。だが他の方法を思いついたわけではない。

「……先生達なら、もしかしたら」

正義は顎に手を当てながらそんなことを言った。確かに教師陣なら行けるかもしれない。

「でもよ、じゃあなんで外から壊さないんだ?」

 ここで当たり前の疑問が浮かんでくる。

そう、どうして教師陣はすぐに防御魔法を破壊しなかったのか、だ。

 俺達はお互いに魔法が使えない。それにこんな防御魔法を張る必要も無いしな。それなのにわざわざ魔法で囲うなんておかしな話だろう。ということは先生達も簡単に気づくはずだ。少なくとも、親父なら。

「……確かに。それじゃあ教師陣だとしても無理なのか?」

でも、先生ですら無理なのだろうか。あの人は魔法のプロフェッショナルだ。そんな人がこれを壊せないとは思えないのだが……

 それに、生徒の避難誘導の為に全員が居なくなるなんて有り得るか?

「……もしかしたら、別の魔法もかかってるのかも知れないな」

 正義が発した可能性につい「あぁ〜」と納得したような声を漏らしてしまう。

別の魔法か。確かにそれは有り得る。

「でもどんな魔法がかかってんだ?」

 俺は完全に素人だからな。魔法のことなんて見てわかるわけが無いので経験者に聞いてみたのだが……

「俺は剣一筋だからよく分からない」

 そうだった。正義も剣だけで戦ってきた男だ。魔法なんて小難しいことが分かるわけがない。……魔法素人ふたりでこれをどうしろと言うのだ。

「だが、多分こちら側から外が見えないようにする魔法はかかっていると思う」

「外を見せない、てことは俺らが戦ってる間に外で何かが起きてるってことか?」

「多分だがそうなのだろう。そうでなければ先生達が対応しないわけが無い」

 仮にそうだとすれば、俺達は外が落ち着くまでここに居るしかないのか?

「まあ、叫んでみたら届くかもな」

 正義は鼻で笑う。俺はそれを聞いて顎に手を当てた。

「……じゃあ、やってみるか」

 きっと正義は冗談のつもりで言ったのだろうが、案外良い案なのでは無いだろうか。

「バカなの?」

「うっせ」


◇◇◇

 ……そして現在に至る。というわけだ。

「バカなの?」

「うっせ」

 数分前に聞いたような会話をする。

何回も言わんでいいわ。そんなこと俺だって思ってるよ。てか俺が一番思ってる。

 ……瞬間、轟音が鳴った。

あまりに突然過ぎる出来事で、俺達は何かが起きたと気づくのに数秒のラグが生じた。


「助けに来たぞおおおおおお!!

マイサアアアアアアアアアアアアン!!」


 俺と正義は音に釣られて空を見上げる。

そこには砕けた紫の何かと共に降りてくる影があった……


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