共闘してもいいじゃない。敵だけど

沈黙が流れることも無く、ソレは正面から突っ込んでくる。

……やっぱりだ。相当なスピードとパワーを持っているけど、全ての攻撃が直線的で分かりやすい。これならまだチャンスはある。


ソレが速度の最大点に到達し、攻撃の動作を始めた瞬間。俺は思い切り舌を噛む。

その舌への攻撃は、千切れる程に強く。そうでなければ意味が無い。




「うーん。中々発動しないね」

戦科訓練中。俺は舌をベロー、と突き出す。

軽く血も出ているし、痛みでズキズキする。

目の前の先生も大分悩んでいる。

「もっと噛まないとなんですかね……」

自分で発した言葉で憂鬱な気分になる。


今やっているのは能力の確認だ。

あの時の戦闘で何となく理解はしたのだが、それでも確認は大事だということで試している。……のだが、能力が発動しないのだ。

先日の戦闘で「舌を噛む」ということが発動条件だと分かっているのだが、どれほど噛んでも発動しないのだ。

「前戦った時さ、なんとなく分かったんだよね。なんて考えてたの?」

……なんて考えていた……か。

「そう……ですね」


俺は顎に手を当てながら考える。

あの時は、なんて考えていたのだろう?

確か、靴下が焼けていて……噛むと発動するということを確かめて……


「千切れる程の力で噛む。ですかね」

そう、使う時はこれを考えていた。

相当強い力でないといけないとも考えていた。理由はもちろんわからないが……

「千切れる程ね。つまり今のでは足りない?」

先生の言葉に、浅く頷く。多分だけど合っている。より強い力で噛まなければいけない……のだが、舌が大変なことになってしまうな。あの時だって一週間くらい食事がろくに取れなかったのだ。

「うーん、やって……みる?」

先生の問いに俺は縦に首を振る。まあ飯が食べられないのは困るのだが、実戦で試すよりはここで試した方がいいだろう。

「それじゃあ……行きますね」

俺は少し抵抗がありながらも、先程よりも強く噛み実験を開始した………





そして、世界は色を失う。



時間は一秒、もう少し時間あっても良いと思うんだけど仕方がない。

全力で前に跳ぶ。相手は停止していると見間違う程にゆっくりとこちらへ向かっている。

逆手のまま構え、攻撃の動作を開始すると世界は色を取り戻し再び動きだした。


「ガァァ!?」

目の前のソレが分かりやすく吠えた。

その吠えを俺はこの能力によるものだと思っていた。普通目の前で敵が超常的に加速した時、驚愕を隠せないと思う。

しかし、ソレが吠えた理由は違った。


「ぐう、うぉぉぉ」

ソイツは攻撃を無理やり止めて俺を見た。

「……こういうのもありなのかな」

俺はそれを見てからナイフを順手に持ち替える。そしてもう一度、舌を噛む。


色を失い、加速した俺はソイツに向かって二発本気で叩く。ここまで約コンマ八秒。

そして、世界が俺に追いつくのと同時に……


最後の一発を叩き込んだ。

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