共闘してもいいじゃない。敵だけど
今度は沈黙が流れることも無く、ソレは正面から突っ込んでくる。
やっぱりそうだ。相当なスピードとパワーを持っているけど、全ての攻撃が直線的で分かりやすい。これならまだチャンスはある。
ソレが速度の最大点に到達し、攻撃の動作を始めた瞬間。俺は思い切り舌を噛む。
その舌への攻撃は、千切れる程に強く。そうでなければ意味が無い。
◇◇◇
「うーん。中々発動しないね」
戦科訓練中。俺は舌をベロー、と突き出す。
軽く血も出ているし、痛みでズキズキする。
目の前の先生も大分悩んでいた。
「もっと噛まないとなんですかね……」
自分で発した言葉で憂鬱な気分になる。
今やっていることは能力の確認だ。
あの時の戦闘で何となく理解はしたのだが、それでも確認は大事だということで試しているのだが、能力が発動しないのだ。
先日の戦闘で「舌を噛む」ということが発動条件だと分かっているのだが、どれほど噛んでも発動しないのだ。
「前戦った時さ、なんとなく能力のこと分かったんだよね。なんて考えてたの?」
あの時なんて考えていた……か。
「そう、ですね」
俺は顎に手を当てながら考える。
あの時は、なんて考えていたのだろう?
確か、靴下が焼けていて、噛むと発動するということを確かめて……
「このままでは終わらない。ですかね」
そう、使う時はこれを考えていた。
死んでも死んでやらないとも考えていた。あの時は世界の理不尽に最大限の抵抗をしようとしていたのだ。
「このままでは、か。なるほどね」
先生は少し悩む素振りを見せて、顔を上げた。その顔は「ひとつ思い当たる節がある」と言っているようだった。
「もしかしたら、意地……なのかもね」
意地、死にたくないという思い。火事場の馬鹿力とも言えるかもしれない。
「あの時の君は、多分だけど死にたくない。こんな理不尽は許さない。一矢報いてやる。そう思っていたんじゃないかな」
……正解だ。我武者羅であったが、考えていたことは「死んでやらない」の一点だけ。
「だったら、殺意がトリガーになるんじゃないかな」
先生は人差し指をピンと立てた。……殺意、か。そこまではいかなくとも、確かに戦意というものは重要な要素かもしれない。
「うーん、やって……みる?」
先生の問いに俺は縦に首を振る。舌を犠牲にするため、当分飯が食べられなくなるだろうが、実戦で使えないという事態は最も避けたい。そのため、今試しておくべきだろう。
「それじゃあ、行きますね」
俺は少し抵抗がありながらも、入学式の日を思い出して、先生を殺すつもりで舌を噛むのだった……
◇◇◇
そして、世界は色を失う。
時間は一秒、もう少し時間あっても良いと思うのだが仕方がない。今度加速倍率を上げる実験でもしてみよう。
全力で前に跳ぶ。相手は停止していると見間違う程にゆっくりとこちらへ向かっている。いい加減慣れたものだ、この景色は。
逆手のまま構え、攻撃の動作を開始すると同時に世界は色を取り戻し再び動きだした。
「ガァァ!?」
目の前のソレが分かりやすく吠えた。
その吠えを俺は最初この能力によるものだと思っていた。普通目の前で敵が超常的に加速した時、驚愕を隠せないと思う。
しかし、ソレが吠えた理由は違った。
「ぐう、うぉぉぉ」
ソイツは自身の攻撃を無理やり止めて、俺をまっすぐ見た。
「……こういうのもありなのかな」
俺は小さく笑みを浮かべてナイフを順手に持ち替える。そしてもう一度、舌を噛んだ。
色を失い、加速した俺はソイツに向かって二発本気で叩く。これだけで約コンマ八秒。
そして、世界が俺に追いつくのと同時に……
最後の一発を叩き込んだ。
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