ウォームアップにしては動きすぎ
攻撃が再開するッ!!……とその時、ソレは攻撃とは違う行動をしていた。
ソレは空に向かって咆哮を放つ。瞬間、俺達の居る戦場と観客の居る客席を隔つように紫色の何かが俺達を囲む。
「なんだこれ?」
困惑しながら、何かに向かって銃を放つ。
音の速さで飛んでいったゴム弾はその紫色の何かに触れると簡単に弾かれてしまった。
「これは……」
この現象は見たことがある。少し違うとするならばあの時は透明で今は紫色の何かだということくらいだ。
これを見たのは、先生との戦闘。つまり入学式の日だ。初めて見た時は超焦ったな。
そう。多分だがあれと同系統の魔法だろう。防御魔法、だったかな。
これを壊す術は俺には無いので、困ってしまった。銃弾が通らないということは内側に張られているし、きっと外側も張られているだろう。
ここまでを可能とするほど魔力量があるのかという話になるが、きっと彼の力では無いだろう。ソレの力が分からないが、それだけ規格外なのだろうか。
「先生からの助けは貰えない。俺一人でどうにかすんのか、これ」
魔法のせいで見えずらいが、外を凝視すると教師陣が慌てているのが見える。見に来ていた生徒が追い出されていることから余程の事なのだろう。どうしたものかな。
と後頭部を掻きながらソレに向き直る。
相変わらず凶暴そうな感じだ。近づきたくない。でも近づかないとなんだよな。
今俺の手元にある武器は二つ。刃の潰れたナイフと訓練用ゴム弾を装填しているファイブセブン。どう考えても目の前の敵と戦うには不十分すぎる。
どうやって戦うかを考えていると、流石に耐えきれなくなったのかソレが吠えながら突っ込んできた。
「もう少し待ってくれよッ!!」
なんとかソレが繰り出す斬撃を避けていく。時々ナイフでずらしているが、それも微々たるもので効果は薄い。実質無いのと変わらないくらいだ。
力の差は歴然。よく耐えている方だと思う。相手の力が強すぎてナイフを持つ手が痛い、ヒリヒリする。
しかしここで死にたくないので、このままではいけない。勝つ手を考えなければ。
……待て。どうして先程すぐに攻撃してこなかったんだ?
防御魔法を発動してから少しの間動いていなかった。攻撃を再開したのは発動から三十秒程経過した頃だ。これだけ暴れる雰囲気醸し出しておいてすぐに攻撃を出さないのは違和感が残る。もしかしたらこの違和感に勝つための一手が隠されているかもしれない。頭の隅に置いておこう。……だが、今ゆっくり考える暇はない。
「グルァァァ!!!」
目の前から迫り来る剣を横から叩き、少し体を横にずらして避ける……とその瞬間俺の腹に左拳がめり込んだ。
「グァッ!?」
そのまま拳を振り抜かれ、五メートル程吹き飛んでしまう。魔法で強化でもされているのだろうか、もろに食らったため息が出来ない。
最悪だ。剣にばかり集中しすぎた。相手が持つ剣が両手剣だということもあって油断していた。誰も片手で振ってくるとは思わないだろ。両手で扱う武器なんだぞ。
立ち上がって息を整える。ソレは動きを止めていた。よく見ると、内側で何かと戦っているように少し顔を歪めていた。
やはり、この違和感は勝利への重大な鍵だ、と俺は先程のも合わせて結論を出した。
「だぁー、しょうがない。少し力見せるか」
どうせなら第二ラウンドの為にとっておきたかったのだが、このままだと負けてしまうので仕方がないだろう。
そう考えた俺はンべー、と舌ベラを出して逆手のまま低い姿勢で構えをとる。
「おら、ウォームアップ終わりだ」
身体は十分温まったし、そろそろ終わらせよう。とそこで俺はふと思った。
ウォームアップにしては動きすぎだと思う、と。……まあ、気にしたら負けだろう。
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