戦闘。同年代との初めてのタイマン
トイレに駆け込んでしっかり出した後、俺は戦場へと入っていった。
通路は暗かったため、突然目に光が入ってきたことで少し目を細めてしまった。……がすぐに慣れ見えるようになってくると、中央あたりに例の男が立っていた。
「よお。逃げなかったんだな」
ゆっくり中央へ歩いていくと、ソイツに声をかけられた。……どうやら相手は余裕らしい。その顔は不敵な笑みを浮かべている。
「そりゃあな。売られた喧嘩は買う主義なんでね」
なんとか笑みを浮かべて返事をする。
正直話している余裕は無いのだが、ここで話さなかった場合確実に舐められる。だからこそ俺はここで無言を返さなかった。
先生のアナウンスが会場に響く。ていうか何やってんだあの人……俺達の紹介なんかしてるんじゃないよ……
「それはまたご立派な主義だな」
だが……と、一言置いて男は抜刀する。
男の顔から不敵な笑みが消え、殺意剥き出しで構えを取る。
「その
その言葉に俺はナイフを抜いて順手で構える事で返事をする。それから数秒後、先生の声から開始の言葉が発せられたッ……!!!
なんなんだ……この男は。
様々な敵を薙ぎ倒してきた俺の剣を、目の前の男は寸前のところで対応していく。
この男は一か月前まではまだ守られる存在だったはずなのだが、なぜこんなにも戦えているのだ。有り得ない……有り得るはずがない……
「オラァッ!!!」
気合いを込めた斬撃をまた当たる寸前のところで逸らされ、逆に刺突の反撃が来たので咄嗟に首をずらして回避する。
淡々と攻撃を返される。なんなのだこいつは……なんなんだお前のその目はッ!!!
底が見えない瞳に意識が吸われる感覚がする。先程から殺気を感じない。大体の敵は隠そうとしても、攻撃の寸前に殺気が漏れ出てくるものだ。しかしコイツからは一切それがない。殺気が無いのだ。この男からは何も感じない。……だからこそ、底が見えない。だからこそ、恐怖を覚える。
そこで、俺は立ち止まった。
……待て、俺が恐怖を覚えただと?
どういうことだ。それこそ有り得ない。こんな奴に、俺が恐怖を覚えることなど有り得るわけがない。有り得るはずが無いのだ。
こんな奴にこんな奴にこんな奴にこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなこんな
……こんな奴に俺は負けない。
そこで、俺の中にドス黒い何かが入り込んだ気がした。
思考が黒く染められていく。今はもう八つ当たりには興味が無い。そんなこと考える暇は無い。
「うぅ……うおぁッ!!!」
何かが入り込むのと同時に、力が湧いてくる。
今考えていることはただ一つ。
……この男を潰す。
「なんだ……お前」
俺は、驚愕を隠せなかった。
先程までギリギリで対応していた攻撃が、突然力を増した。……いや、少し訂正しよう。
凶暴さを増した。
突然攻撃を辞めて立ち止まったかと思えば、更に突然叫びながら攻撃を再開した。しかも黒さが増したのだ。繰り出される技々に……
斬撃を逸らすにもある程度拮抗する力が必要と、先生が言っていた。……彼の攻撃であればギリギリ足りていたが、コレの攻撃は……俺では逸らすことが出来ない。
……最悪だ。ただでさえギリギリだってのに。なんですんなり行かないんだよ……
「……ふぅ」
大きく、一息をつく。
そして、ナイフを握り直す。
今度は、順手ではなく逆手だ。
彼との戦いは休戦といこう。今のコレは、彼とは言えない。満足に戦うために、本気は出さない。
コレは凶暴だ。しかし強くは無い。なぜなら野生動物のように凶暴だからだ。ただ暴れているだけなのだ。だからこそ強くは無い。
……だからこそ本気を出さなくても十分なのだ。
そして彼は強い。本気を出しても勝てるとは到底思えない。つまりコレなんかに本気を出す暇も余裕も俺には無い。
さあ第一ラウンド終了だ。そしてここからの戦いを言葉で表すとするのであれば……
「本戦前のウォーミングアップ、だな」
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