当分ヒロイン無しですか?

「おかしいと思うんですよね。俺」

訓練が終わり、仰向けで倒れている俺は唐突に口を開く。

「おかしい……とは?」

足元から声が聞こえてくる。高い女の人の声だ。

「……いや、俺だけボッチって何なんでっすか」


この学校にはとある制度がある。それは、チーム制度だ。クラスが発表された数日後に実力検査があってその結果を元にチームが組まされる。今後は訓練も任務もそのチームで行うことになる。……のだが、俺は何故かチームが組まされていない。それどころか、実力検査すらしていないのだ。

それが何故なのか、今足元にいる人に問いかけているのだ。


「あー……色々あるんだけど、一番は君と合う人が居ないからかな」

その言葉を聞いて、俺はゆっくり起き上がる。当たり前だが、起き上がると彼女の姿がはっきりと見えてくる。

「俺と合う人が居ないから。ですか……」

俺と合う、それはどういうことなのだろう?

「君、自分がなんで一人で訓練してるか分かってる?」

俺は目の前の人の問いに対して縦に首を振る。


この学校に部活はない。まあ普通の高校では無いから当たり前なのだが、部活の代わりみたいなものは存在する。

それは「戦科」というもので、大きく分けて「アサルター」「スナイパー」「マジシャン」「アサシン」の四種類がある。

その中でも色々分かれているのだが、それはそのうち話すことになるだろう。

俺はアサシンに所属している。アサシンは少し特別で細分化されていない。……つまり、アサシンという戦科はそのままアサシンなのだ。

そしてアサシンはとてつもなく人気が無い。

……まあ、理由は分かりきっているのだが。


その理由はとても単純で、死の危険が一番高いからだ。

アサルターは集団での突撃、そして重装備が基本である。戦科によっては軽装備なのだが、それでもアーマーはある。

スナイパーなんて超遠距離が基本で死ぬことはまあ少ない。マジシャンも同様に中遠距離だから、そして防御魔法を張るから死ぬことは少ない。

……だがアサシンは違う。アサシンとは暗殺、潜入、戦場での支援が主な仕事だ。

そのためなるべく荷物を減らさなければいけないのだ。

よってアーマーなど着ることは有り得ない。それどころかアサルトライフルすら持たないのだ。つまり、死が一番近い戦科というわけだ。


……んまあ、こんな死にやすい戦科選ぶ奴なんか居ないよな。俺だって好きでこの戦科に居る訳じゃねえし。

俺がアサシンに所属している理由は単純で、目の前の先生がこの戦科の顧問だからだ。


目の前の先生の名は海松菜美奈みるなみな先生。先日入学式で俺をボコボコにしてきた先生だ。

どうやら少し前までただの一般人だった俺を他の生徒と同等まで鍛え上げろと親父からの指示だそうだ。


「君は特別に入学が許された異例の人物かつ完全個人技のアサシン、それにあった能力と身体能力。そんな人と合う人間なんて中々居ないよ」

彼女の話を要約するとこうだ。



おめーは当分ボッチだ。



悲しきかな。せっかくの高校生ライフを相棒も仲間も出来ずに先生とマンツーマンでトレーニングの日々。


「え、てことはこんなアニメ展開でヒロイン無しですか?」

そこで俺は気づいてしまった。

間違えて行くことになった先で殺されかけるも能力が覚醒して生還し無事入学。ここまでアニメ的な展開があってさあここから青春が始まる!!みたいな感じなのに背中を預けるヒロインが当分現れない無いということに。

「ここに居るじゃん。先生という最高のヒロインが」



「はあ……ヒロイン無しかよ。詰んだわ」



先生が何か言っているがヒロイン無しのショックが大きすぎて耳に入ってこない。

現実は非常だな。トホホ……

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