危機回避の先の危機を避けるには
彼女の問い、正直俺が一番考えている。
俺は一体何者だ?今まではただの一般人で、何も特徴のない普通のモブで、でも今俺の視界で起きたことは絶対に夢ではなくて、夢だと思いたいほどに有り得ない事象で、それを起こしたのは紛れもない俺の力で……
「分かりませんよ。俺か知りたいくらいです」
と混乱する頭をどうにか回して返答する。
今のは、俺の力?でもこんな力俺にあったのか?ていうかこの力は一体なんだ?
戦闘中だということを忘れて考えていると、少し離れたところから教師の声が聞こえてきた。
「今のは"のう───"なの?──しておかなきゃ。──に並ぶ────になり得る。後で──に報告しなきゃ……」
距離が空いていることもあってよく聞き取れなかったが、何かを呟いていた。
……今ならチャンスなんじゃないか?彼女は物思いに
卑怯であるということは分かっているが、命をかけた戦いの最中に考え事をする方が悪い。それに卑怯は最高の戦略だ。
彼女に悟られないように静かに、ゆっくりと銃を構える。先程の出来事でも銃を落とさず手にしっかりと握っていたので、拾いに行くロスは無い。
先程までの構えとは違い今回はハンドガンを持つ利き手側の足を引き、半身になるように構える。そして利き腕は真っ直ぐ伸ばして逆の手は利き手に添えるように握り込む。
所謂ウィーバースタンスという構えだ。先程までの構えと違ってこっちの方が慣れていて命中率が上のため、当たりやすい。
フロントサイトとリアサイトをしっかりと教師に合わせて……トリガーを引く。
大きいが余裕をもって耐えられる衝撃が身体に伝わるのと同時に火薬が炸裂する音が聞こえる。
ほぼ肉眼で追うことの出来ない銃弾は一直線へ空気を駆け抜け教師の元へ辿り……
着くことは無かった。
完全に思考に溺れていると思っていたのだが、なんと魔法は残っていたらしく彼女の眼前で弾頭は弾かれてしまった。
「……やっぱり、考えるのは後にしよう」
彼女は静かに顔を上げて、俺に指を向ける。その一連の動作に嫌な予感を感じた俺は即座に横に飛ぶ。
その直後、俺が数秒前まで立っていた場所に光が通った。床が焦げて黒くなっている。あれに当たるところは想像したくないな。
「これも避けるんだ。本当に君はなんなの?」
彼女は苦笑しながらまた指を向ける。あの威力の攻撃を連発可能とか聞いていないぞ。
待って俺まだ体勢直ってないんだって!!
という心の中の訴えが聞こえる訳もなくまた光を飛ばしてくる。
何とか足の力を使って体を前に飛ばすことで回避はできたが、その際に靴の先を光が掠ってしまった。
その掠った先はなんと抉られたように消え、断面は黒く焦げている。おいふざけんな靴減ったじゃねえかって、そんなこと考えている暇無いんですけど?
前に飛ばした体を空中で無理やり立たせながら着地、アンドゴー。
多分このままだと俺は死ぬ。今でもギリギリなのにもっときつくなるんだから生きられるわけが無い。
希望も無く詰みだと思っていたのだが、そういう訳では無い。まだ先程の力がある。
どういう物かはまだわからないけど、アレを使えば生き延びられるかもしれない
しかし能力の発動条件が分からない。先程発動した時は一体どういう事をしたのだろうか?思い出してみよう。
教師の不意打ち魔法が飛んできて、それを避けられないと悟って、悟りと同時に怒りが湧いてきて、理不尽な世界を思い出して、でも抵抗しようとして……
考えろ。通常とは違った行動が必ずあったはずだ。それを探せ。日常ではしてこなかった、この時だけの行動。
そこで、俺はハッとする。
あった。発動条件
そこまで頭を回して、可能性に気がついた。血の味がする口をバレない程度に歪めてニヤケてしまう。
これで、まだ戦える。まだ生きることが出来る。というその喜びによって、視界が鮮明になっていく……
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