一般人のはずの少年。君は何者?



 ……二次元の世界でしか有り得ないであろうレーザーが、放たれた。


 多分実際には有り得ない速さで接近しているであろう極太のレーザーは、俺の視界ではゆっくり接近し既に目の前まで来ていた。

 その瞬間、俺は悟った。悟ってしまったのだ、自らの死を。

 死を悟った俺だったが、この感情はそれだけでは止まらなかった。

 ……ふざけるなよ。どうして俺が死なないといけないんだ?

 死を悟るのと同時に、俺は怒りが湧いていた。一時的な怒りの矛先として舌を千切る程の強さで噛んでしまう。きっと誰だって怒りが湧くだろう。だって何も知らず間違えられてこの学校に来たのに抵抗も出来ず殺されるなんて。

 世界は不条理で理不尽だ。そんなことは知っている。だが、理解はしていても納得出来る訳がない。こんなことで死んでたまるか。

 俺の怒りは沸点に達していた。そして死ぬ寸前ではあるが、どうにかして足掻こうと最後の抵抗に出ようとした瞬間だった。


 突然、世界は停止した。


 灰色の世界。レーザーも教師も何もかもが停止し俺だけが動ける。そんな世界。

 ……少しだけ訂正しよう。世界は止まっていない。止まっているように見えるくらいゆっくりになっているのだ。

 いや、これもまた違う。周りが止まっているように見えるくらい俺が早く動いているのだ。人智を超える速度で動いている。

 俺はその事象に驚きを隠すことが出来なかったのだが脳は正常に高速に動いていた。

 知らない力なのだがまるで昔から知っているかのように扱える。この力は確実に俺の力で、時間制限があって、俺自身を有り得ない速さに加速させる。そんな力。

 ……そう。時間制限があるのだ。この力は時間制限がある。その時間、現実の時間にして約コンマ一秒。現在の加速倍率を百倍だとしても十秒しかない。

 そして、俺は自分の限界も理解している。

俺の限界は百倍の十分の一。つまり十倍だ。

加速倍率十倍ということは発動時間は約一秒。

 即死は免れたが危機は脱していないのだ。

そしてこんなことを考えている間にも時間は進み体感だが残りコンマ七秒ほどだろう。

 それを理解した俺は思い切り横に向かって飛ぶ。地を蹴った瞬間力は解除され世界は色を取り戻した。

 力が解除されたということはレーザーも動き出すということ。全力で横に飛んだことによって当たることは無かったがレーザーは空気を焦がしながらすぐ横を通過していった。


◇◇◇

Teacher's side


 軍人として戦場に赴き、軍事学校の教師を数年間勤めてきた私は何度もありえないだろうという現象を見てきた。

 ……しかし、きっと今目の前で起きた現象は今までの私の人生で片手に収まるくらい理解できない現象だったのだろう。

 目の前の彼はきっと察しが良い。それも並の軍事学生より良いだろう。それに少し稚拙ながら技術も持ち合わせている。

 そんな彼は私の不意打ちにも寸前で反応した。勿論寸前の反応くらいでは私の魔法は逃れられないのだが、彼は有り得ない動きで攻撃を回避した。

 私には一瞬、彼だけが世界を逸脱したように見えた。それほどに有り得ない動きを彼はしたのだ。それを見て、私はつい彼に問いを投げかけてしまった。


「ねえ……君は一体、何者なの?」

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