第24話
四人は一階に下りると、囲炉裏を囲んで、干し魚や干し肉で簡単な食事を取った。屋敷には、米も残っていたが、わざわざ炊く時間も惜しかった。
「所で、あんたは何で私達の前から姿を消したんだい? 正直に答えな」
ひと息ついた時、時雨が留三に聞いた。
留三は、口の周りを手の甲で拭い、口の中の肉を咀嚼しながら話し始めた。
「大体、分かってるだろう?」
「大体だ。あんたの口からはっきり聞きたいんだよ」
時雨が鋭い視線で留三を射抜く。
「そうだな。まず、最初のきっかけは、地下のゾンビ共だ。あの中のひとりが他と変わっていたのは気付いたな?」
「刀を持っていた」
「そう。しかも、他のゾンビに指示を与えていた。身振りで、だがな」
「指示?」
時雨が眉を顰める。
「そうだ。お前達も船でも見ただろう。落ち着いた剣士のゾンビを」
「そう言えば、あの剣士のゾンビは、カールという南蛮人の言う事を聞いてましたね」
宗次郎が記憶を呼び起こす。
「そうだ。あのゾンビは、あの南蛮人の護衛をしておる。南蛮人に危機が迫ると、自らの判断で敵味方を判別して役目を果たすのだ。どうだ? 今までのゾンビの弱点は、己の欲望に見境無く行動する所だ。だから、ある意味戦い易い所もあった。だが、あのゾンビは、南蛮人の指示を聞いて、己の役目を理解し、行動する。人間と異なる所は、決して命令に違反しないという点だな」
「主にとって、これ程都合の良い兵士はいない……」
「そうだ。その点が大きい。どんなに厳しい命令を出しても、ゾンビは何の反感も起こす事は無い。そして、己の命を惜しむ事も無い。こんなに使い勝手の良い兵士は他にいない」
「誰もが喉から手が出る程欲しいわね。でも、そのゾンビは、誰でも生み出せるの?」
「そうさ。そこが難しい。実際にその新しいゾンビを生み出す方法を手に入れないと、意味が無い」
「で、見付けたんですか?」
「それを探している時にお前さん達が現れたのさ。おかげで何の手掛かりも手に入れられなかったわ」
「そうですか……」
「かっかっか。まあ、そうは言っても、あの特別なゾンビは、南蛮人だけしか生み出す事が出来無いみたいだから、あのカールを仲間に引き入れないと難しいんだろうな。しかし、カールには三好の息がかかっている。となると、一介の田舎者の俺が相手に出来る相手では無い。お前さん達が船に現われた時には、俺は既に計画を諦めていたのさ」
「それは本当?」
腕組みして、留三を見る時雨。
「そのつもりだがね。どうせ、何話してもまともに聞く気は無いだろう?」
「そうね」
「どっちにしても、あの剣士のゾンビは強い。宗次郎でも難しいだろう」
「あら、そんなのやってみないと分からないでしょ」
「それよりも、お前さんはどうするんだ? 三好の再興なんて聞かされた日にゃあ、雇い主がどう思うか」
「それは、私の関知する所では無いわ。でも、そんな事出来ると思う?」
「そこは、陣兵衛とカール次第だな。あのふたりの関係が上手く行けば成功するかもしれない」
「その可能性は?」
「俺は、只の泥棒だ。そんなの分かりっこない。半々と言った所かな」
「答えてるじゃない。それに、只の泥棒とは思ってないわ」
「じゃあ、優れた忍びは、どう思う?」
「私は、あの場にいなかった」
「そうだな。命令が絶対な忍びは、自ら考える事をしない」
「言ったでしょ。仕事以外では、自分の判断で動いてる」
「あれは、仕事の一環だろ?」
「今回のように対象の目的を調べる事だってあるわ。ちゃんと」
「だから、今回はどう思ったんだ? 少ない材料でも、ちゃんと考えたんだろ?」
時雨は、そこで大きく溜め息をついた。
「分かった。まず、私が思ったのは、幾ら三好の生き残りだと言っても、あれだけ大きな南蛮船を呼び寄せる力があるのかな、という事。それと、どうして、陣兵衛があそこまでゾンビに信頼を持っているのかという事。何故なら、普通に考えても、危険過ぎるわ。そりゃ、落ちぶれた三好にしたら、すがりたい気持ちは理解出来るけど、余りにもカールに頼る部分が大きいわ。下手したら、三好家を乗っ取られる可能性だってある。そこが気になった所ね。今の段階では、早計に答えは出せないってとこね」
「はー。さすがだねー」
「その言い方気になるわね」
「あのー、すみません」
宗次郎がふたりの間に割って入って来た。会話の邪魔をしたくないのが声色に出ている。
「あら、ごめんなさい。何かしら?」
「そういう問題も解決しないといけないのでしょうけど、私は、お小夜さんを逃がしてあげたいのです。手伝っていただけないでしょうか?」
「おお、そうだったな。取り敢えず、その子を逃がしてやれば、あいつらだって困るだろう」
「困る?」
「そうだろ? その子がいないと旗揚げ出来無いんだからな。まあ、どこか探せば他にも生き残りはいるだろうが。絶対、その子が必要だって訳じゃないからな。只、他の人物は、三好の旧臣の息がかかっている奴ばかりだろうから、自分が権力を握ろうと思えば、その子を使うのが一番都合良いな」
「だったら、本当に危ないじゃないですか。早く逃がしてあげないと」
時雨は、留三を見た。
「そもそも、あなたはどういうつもりでこの子を助けてあげたの?」
「そりゃ、その子がいなくなれば、陣兵衛の計画もおじゃんになると思ってだな……」
「ほんとに? 良い儲け話になると思ったんじゃない? この子を誘拐して、身代金を取ろうと思ったんじゃない? 泥棒だから、そのくらい考えるでしょ?」
「茶化すな。てか、俺が泥棒だって、宗次郎に言ったか?」
「言ったわよ。別に内緒でも無いんでしょ?」
留三は、明らかに渋い顔をした。
「嫌なの?」
「自分が泥棒だって、誰が言うかっ」
「あら、私の事は、忍びだって、すぐにバラしたじゃない」
「お前は、気にしてなかったじゃないか」
「気にする間も無かったわよ」
「忍びは、人の心を操る。自らを忍びだと教えるのもお前達の計算に入っていたりするだろう? だが、泥棒は何の計算も無い。只、人から物を盗み取るひでえ奴らだ。絶えず、白い目で見られるんだ。隠すのも当然だろう」
「あら、そんなひどい泥棒さんが何の心変わりか人助けに動くって? とても信じられないわね」
「あのな……」
「そんな事はどうでもいいですから! お願いですから、協力して下さいよっ」
とうとう、宗次郎は、本気でふたりを睨み付けた。
後ろでは、小夜がはらはらして三人の様子を見ている。
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