第18話
「あら、お父さん、ちっちゃな子だよ」
戸を開けた中年の女性は、おんぼろの小さな家の中に向かって声を掛けた。
女性も農作業で泥だらけの汚れが満足に落とせてなく、擦り切れた一枚の着物を体に巻いているだけの粗末な姿だったが、そこに立つ小太郎の方が余程酷い格好をしていた。
確かに、ゾンビから逃れる為に堺の町を転げ回って逃げたし、堺から脱出してからも、街道に転々といる織田勢を避けて、暗闇の中を誰にも見付からないように茂みの中や川べりを這いずり回った。体中、服も顔や手足も泥や切り傷に覆われている。
さすがに、その小太郎の酷すぎる姿に、中年女性は同情を感じ、急いで家の中に入れた。取り敢えず手足を洗い、顔を濡れ雑巾で拭いてあげた。
「何とまあ、きったない子供だなー」
自らを省みず、囲炉裏の側で横になっていた夫が眉間に皺を寄せて言う。
「おい。そのガキを家に入れるのか?」
「大して、綺麗な家でも無いでしょうが」
口喧嘩で妻に勝てる可能性は無い。夫は、ぶつくさ言いながら体を起こした。
「おい。こっち来い」
小太郎を手で招く。
小太郎は、おずおずと囲炉裏に近付いた。
「お前、腹減ってるだろ」
小太郎は、僅かに頷いた。
「あ、そうね。何か残ってるかしら」
妻がゴソゴソと探し出す。
「干し芋と、昆布と……」
「そんなもんより、米炊いたれ。腹が満たされないだろが」
普段は、粗野で口汚い男だが、少しの優しさは持っている。
「お米……」
小太郎が呟く。
「そうね。少しだけ蓄えておいた分があるわ。ちょっと、この干し芋を食べながら待っててね」
小太郎は、干し芋を渡されながら、米を炊く準備に入った中年女性の背中を目で追っていた。
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