第15話

「さてと……」

 留三は、宗次郎を見送るとしっかりと扉を閉めた。

 数人の足音が少しずつ近付いている。

 乱暴に地下通路に響く水飛沫。誰かに気付かれるという意識を持たない者の無感覚さ。確たる意思を持たない生き物と言えば、この町には一種類しかいない。

 灯りに浮かび上がったのは、四人のゾンビだった。

 先頭に刀を持った偉丈夫。残り三人は、血だらけの手足に猛り狂った目で留三を凝視する。

 別に、宗次郎達を守ろうとした訳じゃない。この狭い地下通路では、ひとりの方が戦い易いし、足音で少人数と分かっていた為、簡単に始末出来るだろうと思ったのだ。

 先頭のゾンビが刀を振るって三人のゾンビを前にやった事で、留三は違和感を覚えた。

 三人は、素人感丸出しで、只、両手を前に突き出して襲って来る。留三とて、剣の腕前にはちょっとした自信がある。水路で足元に不安があるが、連携の悪いゾンビ達の間を動き回り、ひとりずつ倒して行った。

 最後は、刀を持っているゾンビだった。

 留三は、少し驚いた。

 そのゾンビは、留三に向けて刀を構えたのだ。

 そのまま、鋭い突きを放って来た。

 形としては悪く無い。しかし、動きが少し遅い。それなりの実力は感じられたが、留三の前には敵では無かった。

 留三は、その突きを軽く躱すと、返す刀で右腕を切り落とした。

 刀は、大きな音を立てて水に落ちて行った。

 ゾンビは、苛立たし気に大声を上げたが、留三はすかさずその口に刀を突き刺して絶命させた。

 ゾンビ達を倒して、暗闇の向こうに耳を澄ませたが、特に他の足音は聞こえない。

 大して、危険な相手では無かったが、留三は刀を操ったゾンビの死骸を見下ろして、しばらく立ち尽くしていた。

(このゾンビは、人間のように動いていた。他のゾンビ達に指示を出し、しっかりと武器を使っていた。一体、どういう事だ)

 己の本能のままに、自らの損壊など気にせずに迫って来るのがゾンビの筈だ。

 しかし、こいつだけは、戦う意思が見られた。

 留三は、何かが大きく変わった事に気付いた。

 この事実を知っているのは、今の所自分だけだろう。ゾンビ達が姿を現してから今まで全てを見て来た自分でさえ初めての経験だ。時雨だって、そこまで知らないだろう。

 留三は、宗次郎達が入って行った扉を見た。このゾンビの秘密には、金の匂いがする。ふたりと一緒に行動しては、この優位性が生かされない。

 特に、時雨だ。

 時雨の雇い主が何を狙っているのか分からないが、この秘密は、戦乱のこの国を引っ繰り返す力を持っている。

 もし、この謎が解けたら、どれだけの価値を生み出す事か。

 金じゃない。この国の権力を握る事だって可能だ。

 ゾンビを思いのままに支配出来たら、織田軍団も敵では無い。

「俺らしくも無く、ひとりでこいつらを待ち受けてしまったが、それが大正解だったようだな」

 留三は、扉の方をちらりと見ると、そのまま後ろ髪を引かれる事も無く、地下通路の奥に姿を消して行った。

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