第14話

「また、地下道ですか」

 四人は、留三を先頭に地下通路を歩いている。一番後ろの宗次郎が後方を気にしながら聞いて来た。

「考えれば分かるだろ。地上も海も難しいとなったら、後はここしか無い」

「商人は、逃げる事しか考えて無いからね」

「そう、その通りだ。それだけは、お前と意見が一致するな」

 複雑な通路を迷う事無く進んで行くと、通路の壁に鉄製の戸が現れた。

 戸には頑丈な錠前が掛けられていて、何者も通さないという意思が感じられる。

「この向こうにあるの?」

「そうだ。この通路は、地下水路から外れて、脱出口になっている」

「でも、随分と大きな錠前ですよ。簡単に壊せないでしょ」

 宗次郎の心配を聞いて、留三と時雨は顔を合わせた。

「そりゃ、これは忍びの時雨に任すしかないだろう」

 意味有り気に時雨に向かって右眉を上げて見せる留三。

 それに対して、時雨は一瞬睨み付けた。(あんたなら朝飯前でしょうが)そんなニュアンスが強く含まれている。

 時雨は、どうして、留三が頑なに正体を明らかにするのを嫌がるのか分からなかった。

 時雨が錠前を確認する。

「ん?」

 留三が通路の奥に目をやった。腰の刀に手を置く。

「どうしたの?」

 留三の動きに手を止める時雨。

「ゾンビが入って来ましたか?」

 宗次郎も留三の視線の先を気にする。

「いや……。気のせいのようだ」

「本当?」

「まあ、こんな所だ。鼠や狸の一匹二匹いてもおかしくない」

「そうですね」

「動物とゾンビの足音を聞き間違える?」

 言いながら、時雨はあっさり鍵を開けた。

 音も立てずに錠前を外すと、ゆっくりと足元に置いた。

「さあ、早く行きな」

 扉を開けると、人ひとり通れるくらいの手掘りの穴が漆黒に沈んでいる。

「出る時は、周りに誰かいないか、よく確認するんだ。織田の兵に気付かれてしまったら殺されるぞ」

「分かったわ」

 時雨は、小太郎の手を取って先に入って行った。

「宗次郎。お前が後ろを守れ」

「留三さんは行かないんですか?」

「俺は、ここを閉めて様子を見ておく。万が一、ゾンビが入って来たら、危険だからな」

「私が残りますよ」

「いいから、さっさと行け。もう、あいつらは見えなくなってるぞ」

 確かに、時雨の持つ灯りが遠くに消えかかっている。

「あの、無茶しないで下さいね。必ず戻って来ますので」

「阿保か。俺がそんな無茶するような奴に見えるか?」

 カカカと笑って見せる留三。

 宗次郎は、留三に頷くと、暗い通路を足早に進んで行った。

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