第11話

「忍び、ですか」

 宗次郎は、口を半開きにしている。

「そうよ。私は、ある人物お抱えの忍びなの。まあ、誰のお抱えかは教えられないけどね」

「そこまで話していいのかよ」

 留三は、呆れた顔をしている。

「あら、あなたが言えって言ったんじゃない」

 時雨は、大した事の無いように言った。

「そりゃ、そうだけどよ。忍びが身を明かすなんて聞いた事が無いぞ」

「これから、お互いに命を預け合うのよ。少しでも信頼が足りないと、目的を達成出来無いかもしれないわよ」

「目的? お前さんの目的って何だよ」

「勿論、あのゾンビを操っている人物を明らかにする事よ。そして、何らかの交渉が出来無いか調べるの」

 留三と宗次郎は、同時に時雨を見た。驚きと怒り。

 ゾンビがどう交渉に繋がるのか。それは、ひとつしか無い。

 ゾンビを利用する。ゾンビを使って目的を果たす。

 ゾンビを使う目的。今の時代、思い浮かぶのは他に無い。

「ゾンビを使って、戦をするつもりですか?」

 宗次郎がストレートに言葉にした。

「国を亡ぼす気かっ」

「ちょっと待ってよ。ふたり共落ち着いて」

 時雨が両手を上げて、ふたりを制止しようとした。

「落ち着けるか。あの化け物達を操ろうとするつもりか。それは危険過ぎる」

「そうですよ。ひとりでも町から出せば、何十人ものゾンビになってしまうんですよ」

「だから、落ち着いてって。分かるでしょ。私は、雇われの身なのよ。それを決めるのは、上の人間なの」

「上って、誰ですか?」

「さすがにそれは言えないわ」

 留三の視線が鋭くなった。

 忍びが自分の素性を明かす事は有り得ない。つまり、それが目的に近付く為に必要だという事。

「そんなに怖い顔をしなくても」

 忍びのルールで雇い主を明かす事はタブーだ。留三もそれ以上求めない。しかし、時雨は、敢えてそれをした。

 つまり、南蛮船に行く為に自分の目的を明らかにした方が真面目な宗次郎相手には良いという判断だ。南蛮船に何が待っているか分からない。その為に、三人の方向性を合わせないと、お互いの目的が衝突してしまいかねない。

 それと、もうひとつ。自分の素性を宗次郎に隠したままでいるのは、時雨の素性を知る留三に弱点を握られる事になる。

「だから、私の今の仕事は、只、ゾンビの秘密を調べるだけなの。それだけよ」

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