第9話
「ヴァイオラが公爵を殺したって本当なんですか、フェスタさん」
「…………ある意味では」
「ある意味ってどういうことですか!」
「オリヴィアさん、落ち着いてください。順を追って説明します」
「早くしてください」
「まず前提となる事実を共有しましょう。ヴァイオラがオー公爵を殺したか否かということですが、これの答えは否です。彼女は殺していません。しかし殺意を持って事件現場に自分の存在を刻み付けたという意味では明らかにヴァイオラはオー公爵の地位を殺しています」
「ヴァイオラはどうしてそんなことをするの?」
「公爵の地位は自分たちが殺しの標的になることで、殺人者の意志を確定するように秩序への反逆が個人的な匿名性から召喚されることへの公文書に記載される形式があるからです。これを特定の第三集団の陰謀だ、という風に読み替えて、個人の意思を封じ込める目的がありますね。でもヴァイオラは、自分の存在を二つに分けて、シザーリオが公爵を殺したという事実の捏造をすることで、公爵の地位が社会的に再生産される構造をヴァイオラという兄妹の立場に置き換えたんです」
「それじゃ、ヴァイオラは単なる嘘つきってこと?」
「いえ、海難事故で死んだヴァイオラの兄の死体は実際に法律的に猶予されて、放置されたままでいるんです。でもそれをヴァイオラが告発することは、自分が公爵に誹謗中傷を仕掛けている、という立場と同一視されることになります」
「じゃあ、公爵を決闘で打ち負かすことはできないの?」
「それだと、卑怯な手を使って、彼女が公爵を殺したんだ、という物語が自動的に作られることになりますね。そして地位の正当な権利を守るための主人公が強大な力で狂った女に断罪するという」
「じゃあ、私の存在は?」
「公爵への嫉妬で盲目になった、という動機を捏造するために用意されたプロットですね。それ自体が個人個人の解釈に読み替えられて、公的な論点の主張はすり替えられてしまいます」
「は、は、は、ね。私は単なる引き立て役。結局ヴァイオラにとって私も脇役の一人にすぎないのね」
「ヴァイオラはいま獄中で取り調べという名の暴力を受けていると思います」
「それが何なの?私には関係ないでしょ」
「ええ、そうです。ですができることがあるかもしれません」
「できることって何?」
「わかりません。ですが私達も可能な限り彼女に協力したいと思っています」
「ふぅん。そう」
「あんたを助けたのはヴァイオラの気まぐれだからな。無理することはない。ただ勝手にあいつが自分で行動を起こして、他人に迷惑をかけたってだけだ」
「あなた達一生そうなの?」
「そうかもしれないな。なんせ愚かな行為しかできない阿保なもんでな」
「金をせびることもできないダメ人間ですからね」
「わかってる」
「……私はここを出ていきます。助けられたことにはお礼を言います。ですが私をそんなことに巻き込まないでください」
「はいよ」
「いままでありがとうございました」
「それでは」
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