第7話

「マライア、やっぱり前の服装の方がよくないか?天に居ます皇子の名の下に金をせびるって役なら立派に果たして見せるから、トーパス先生なんていう悪魔払いの神父役なんていまどき女装趣味のおじさんよりも儲からないぜ」

「心配しないでください、フェスタ。『人並に正直で、人付き合いがいい』と思われるくらいに学者先生ぶりたければそれでもいいのですが、『学問に骨身を削って、たいそうな学者』って身振りを示すには金をせびる身振りを見せないのが一番いいでしょう。背丈もあなたにピッタリ似合いますよ」

「おいおい、勘弁してくれよ」




「マルヴォーリオさん、今日は来てくださってありがとうございます。こちら神父のトパース先生です」

「おお、おお、マルヴォーリオ殿、カムスタカ___すなわちご機嫌よう!かの、台湾の老いたる隠者の吐ける名言をご存知か?鉛筆も墨汁も目にしたことのなかりしが、彼が文殊菩薩の姪御に語りて曰く、『これはこれ、それはそれ』。なんとなればわしの語ることは作者の意志の代弁であるからなり、かくしてかくあることはしかじかなることでもある。よって私がサー・トーパス先生であることは明らかなり。それはそれ以外の物ではありえないからなり。マルヴォーリオ、汝は狂人か?」

「いいえ、トーパス先生。私はあなたと同じくらい正気です。それで伺いたいのですがオリヴィア嬢に会わせてくださるって本当ですか?」

「もちろんこの文章の厳正にして真実なる言葉に誓うが、会わせてあげよう」

「ありがとうございます。いままで誠心誠意文章を読んできたかいがありました」

「そうだろうそうだろう」

「ところでトーパス先生、ここには文章しか見えないのですがどこにオリヴィア嬢がいらっしゃるんですか」

「これは異なこと!失礼ながらどうやらあなたは文章を真剣に読む努力が足りないおかげで思考が鈍り、そこにオリヴィア嬢がいるのがわからないらしい。ほらオリヴィア、ここに来てくれ。(マライアに頼む)」

「(声真似して)どうかしましたか、マルヴォーリオさん」

「ああ、本当にいらっしゃった!」

「了解していただけたかな。しかし、そなたとのオリヴィア嬢との結婚の約束じゃが、それはそなたが交通事故で死んで転生して、イケメンで天上天下唯我独尊に天才ですべてがチートであるそこら辺の平凡な男になってからにしてもらいたいとの仰せじゃ」

「そんなの狂ってます!」

「そなたこそ狂っておるのじゃ。いいかな、普通に考えて真実の言葉に忠実な愛の心を誓いに変えるにはその程度の努力ができなくて男を見せることがどうしてできるのか、わしには理解できん」

「しかし私は毎日必死に努力しています!」

「そなた、世界を破壊しておるかの?」

「中二病ですか?そんなの子供の妄想でしょう」

「そういうからにはオリヴィア嬢に会わせることはできんな。なにせ転生もできない男に平凡な役割など与えるわけにはいかないからな。さらばじゃ」

「待ってくださいトーパス先生、子供のためを思ってそのようなフィクションにも寛容になります。だからオリヴィア嬢に会わせてください!」

「残念じゃ、本当に残念じゃ、そなたにはすっかり悪魔が取り憑いておる。医者では役に立たなかろうが、入院でも理解できることがあるじゃろうて」

「そんな殺生な!」

「天に居ます皇子に金をせびるのじゃな。法令に則ってオリヴィア譲と結婚できますように社会的名誉と財産を譲ってください、と」

「どうかお慈悲を!」

「(マライアが声真似して)マルヴォーリオさん、ありがとうございます。ですがあなたが苦しんできたことは私が一番よく知っています」

「おお、オリヴィアさん、待っていてください。名誉をかなぐり捨ててでもあなたをもらい受けに行きます」


「行ってしまったか。なあ、マライア、最後のはサービスしすぎじゃないか。技巧を凝らしているんじゃないかと疑われてしまうぞ」

「いえ暗黙の了解の伏線です。トービーさんとの約束もありましたしね。録音された男性の声による不名誉より女性の音声の不名誉の方が暴かれていないだけで一般的でしょう。私には問題になりません。そんなことよりもそろそろヴァイオラとアンドルーとの決闘の時間です。ヴァイオラは大丈夫ですかね」

「ああ、ヴァイオラがまたやらかさないか心配だな」



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