第6話

「ねえ、騎士トービー、僕、あのシザーリオって男とオリヴィアを賭けて決闘をしようと思うんだけどどう思う?」

「いい思い付きだぞ、騎士アンドルー。奴が実は臆病で女みたいな根性しか持たないってわかれば世間の評判も下がるし、公爵を八つ裂きにするなんて馬鹿な真似も女にもてるためにやるなんて思い上がりも甚だしいってわかるだろう」

「具体的な方法はどうしようかな。僕、計略とかそういう卑怯な真似は大っ嫌いだから正面から真っ向でぶつかって相手の肝をつぶしてやりたい」

「ついでに尻から入って突きまくるって訓練もした方がいい。相手の耳に脅しの文句をふーふー吹き付けてやれ。そうすれば相手は戦う前からこいつは百戦錬磨の勇士だって思って腰が引けてくるだろう」

「僕の側に勝ち目はあるのかな」

「合理的かつ理性的に考えて、相手は気違いだからな。俺が責任をもって手紙の連帯保証人になってやるぜ。それにはこう書くんだ。阿呆そこのけの勇気をもってガンと一発突いて、それから、我は事故でにぶつかっただけナリ、を害するつもりはないナリ、なんとなれば我はオリヴィアに求婚するものであるからして、もし相手が確率的に死んだとしてもその法的責任は剣が開けた穴にアリ、したがってその穴には無数の殺傷痕が目撃されても情熱の焔で消化されるものナリ、故にお前は我を害することがあれば友人でなく嘘つきナリ、クソくらえコノヤロー、ってな」

「すばらしい名文句だ。僕、お礼にお酒をたくさん買ってくるよ」

「よろしく頼むぜ。じゃあ俺は行ってくる。決闘と宴の準備を忘れるなよ」

「まっかせて」


「おやトービーじゃないか。アンドルーは元気か?」

「ああフェビアンか。アンドルーは相変わらず絶好の金づるだ。それよりマルヴォーリオに関する噂は広めてくれたか?」

「もちろんだ。こんな面白い善事に加担しないわけにはいかないからな。オリヴィアの机を見た時の奴の反応ときたら釣り堀の代金をすべて前借りしてでもオールベットしないわけにはいかないよ」

「その通りだ。マライアは首尾よくやってくれたようだな。あの可愛い悪魔には俺でさえ頭が下がる。投資に使っている資金を全部つぎ込んでも俺の女にしたいくらいだ」

「見込みはあるのか?」

「アンドルーがシザーリオに喧嘩を売って、お互い礼儀正しくお見合いをしてまごつくのと同じくらいな。その後両者の取り持ち役として賠償金を請求して、宴の席で正式に発表するつもりだ。マライアも生活が安定していないみたいだし男を見せるちょうどいい機会さ」

「シザーリオはいかれてるって評判じゃなかったか?」

「そりゃ十中八九ペテンさ。俺の勘では他人の視線に敏感で、適切に状況にあった演技できるが教養だけしかないって奴だ。だから何も心配することないさ。ま、見てろって」

「そいつぁ楽しみだな」


「お前たち、そこで何をしている」

「これはこれはマルヴォーリオ閣下、ご機嫌麗しゅう」

「マルヴォーリオ先生、どうか幸運の星の下に巡り合いますよう!」

「何をふざけたことを。お前たちの企みなどとっくにお見通しだぞ」

「左様ですか」

「どんな陰謀なんですかね」

「ふん、お前たちの口元を見ればわかる。私を中傷で貶めようという魂胆だろう。それで先に手を出させようと根も葉もない出まかせをまき散らしている。それで挑発に乗った私を暴行罪で逮捕させるつもりだろう。そんな手には喰わんぞ」

「あー」

「どうしてわかったんです?」

「私には心に決めた人がいるのだ。その思い一筋であれば、お前たちのねじ曲がった性根などすぐに見て取れる。お前たちは誠実に真実の文字を読むこともできないのだからな」

「ふんふん」

「なるほど」

「今に待っていろ。必ず吠え面をかかせてやる。私の真摯な思いが認められた暁にはお前らにもおこぼれを与えてやらんこともない。じゃあな」

「こいつは傑作だ」

「あまりにもうまくいきすぎて、現実だとはとても信じられない」


「お二人とも、マルヴォーリオを見ませんでしたか?」

「マライア、どうしてここに?」

「ちょっとした用事です。ここにはいないようですね」

「ついさっきまでここにいたんですけどね。呼んできましょうか?」

「お気遣いありがとうございます。ただそれには及びません。内密の用事ですので。ではこれで失礼」


「あいつに内密の用事ってなんだ?」

「落ち着けトービー。まだそうと決まったわけじゃないだろう。罠の仕掛けのちょっとした最終確認かもしれない」

「……そうだな。トービーを確実にけしかけられるよう決闘の文句でも考えておくか」

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