第5話

「シー公爵、ご着任おめでとうございます」

「ありがとう、キューリオ。早速で悪いが、前公爵の統治の時に海難事故から帰還した外国人の様子はどうだ?」

「公爵の収益を民間の権利の下に分配しようとした闘志アントニオのことですか。彼ならいまだに亡き親友セバスチャンの骸を胸にこの国への埋葬を要求しています。彼の訴えは保留されたままです」

「そのセバスチャンの遺体はどうなっている?」

「ひどい汚染の影響が出ています。この汚染を公表すれば調査団や地元の住民が黙っていないでしょう。このまま埋葬すれば彼の経歴も相まって少なからず政務に影響が出ます」

「ヴァレンタイン、何かいい案はないか?」

「恐れながら申し上げます。闘志アントニオの要求を聞き入れるべきかと。ただしその年月は可能な限り遅らせ、彼の熱意が空回りする様になるまで軟禁するべきです。セバスチャンの遺体は可能な限り丁重に埋葬するという名目で放置しましょう。そうすれば公爵は不実でもなく、現在の私的な腫瘍に悩まされることもなく、公的な政務を円滑に送ることができると愚行いたします」

「なるほど。よし、キューリオ、警察や管轄部署に連絡して可能な限り素早く手はずを整えてくれ。一瞬の苦労で現在の時を無限に引き延ばせるとあってはそれを利用しない手はあるまい。人生は有限なのだからな」

「はっ、行ってまいります」

「話は変わりますが、サロンの側室からシー公爵の肖像画が届いております。いかがなさいますか?」

「適当な場所に置いておいてくれ。何、すぐ気分が変わって描き直させる。夢中になって追いかけられるものができるまで現在の偶像で無聊を慰めようというわけだ」

「わかりました。そのように手配しておきます」

「頼む」





「ヴァイオラ、聞きたいことがあるんだけど」

「何かしら?」

「あなたに兄がいると聞いたんだけど、どんな人?」

「そうね、よぼよぼで、足腰が立たなくて、全身しわだらけで、おまけに脳味噌も停止していて、双子の私によく似て凶暴なところがたっぷりある男よ」

「はぐらかしてばっかり。双子であるのならそんな老人であるわけないでしょう」

「ええ、そうね」

「もう!わかった。先に私の兄のことを話す。それでいいでしょう」

「好きにすれば?」

「私の兄はこれと言って特徴のない人だった。優しいと言えば優しいし、優柔不断と言えばそうも言える。私のために怒ってくれることもあれば、全く知らんぷりして世間に追従しているときもあった。家族は大切だと言っているそばから、家族に迷惑をかけて適当に誤魔化して私のせいにすることもあった。でも急に兄が交通事故で死んで、彼がどんな人間だったろうって考えだしたら、急に不安になって、それで私は幸せになってはいけないんじゃないかって」

「ふぅん」

「それで、私は……」

「それで一生を過ごすつもりなの?」

「それは……」


「ああ、オリヴィア、ここにいたのか」

「フェスタ、さん?」

「どうやら前の職場の同僚たちが話があるようだとマライアが言ってきた。どうやらマルヴォーリオという男のことらしいが」

「マルヴォーリオですか?確か書記をやっていた方のような」

「その男がどうやら君に恋をしているらしい。というより君が彼に恋をしていると思い込んでいるらしいんだ。あまりに思い詰めた様子で手に負えないと」

「私にどうしろと?」

「単純に言えば勘違いを解いてほしい」

「私にそんな力があるでしょうか」

「あなたにしかできないことだ。どうか頼む」

「私からもお願いする」

「ヴァイオラ?いきなり男口調でどうしたの?」

「彼には男装してシザーリオと名乗っていた時に色々と手伝ってもらったからね。彼が不幸になる姿は見たくない。どうか力を貸してくれないだろうか」

「ええ、そこまで言うなら、わかりました。フェスタさん、マライアさんのところまで案内してください」

「ふぅ、これでとりあえずマライアに怒られずに済むな」


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