第3話

「ヴァイオラ、お前まーたぶっ殺したのか。ふざけんな」

「すみませんニート、いえフェスタ社長」

「そうですよニート、仕事してください」

「マライア、お前もか」


 公爵が死んだ場所からヴァイオラに案内されて連れてこられたのはSNTという企業らしきものの所有している部屋だった。というかマンションの一室だった。ヴァイオラは男装を解いており、オー公爵の前で見せたような素振りは微塵も感じさせないような顔で今回の出来事を二人に報告した。


「こんにちはオリヴィアさん。私はマライア、SNTスーパーニートタイムの専属パートらしきものをやっています」

SNTスーパーニャル子ちゃんタイムだよ。俺はフェスタだ」

「ええと、ご職業は?」

「社長だ」フェスタが断言する。

「ニートです」とマライア。

「ニートですね」ヴォイオラも続く。

「はぁ、そうですか」とオリヴィアは呆れたように気の抜けた返事をする。


 フェスタは盛大にため息をつくと後ろにある掛け軸に目をやった。そこには『将来のことはゲームをやってから考える』と書いてある。


「で、ヴァイオラ、こいつは?」

「オリヴィアです。偶然拾いました」

「でかい落とし物だな。どうやって連れ出した」

「いつも社長がやっているようにです」

「マライア、なんとかヴァイオラに言ってやってくれないか」

「人徳の問題ですね。他人のふり見てわがふり直せというべきかと」

「俺はそんなことをしてないぞ、誓って本当だ!」

「白々しいですね。そうでなかったらどうして私があなたごときの下にいるのですか」

「ヴァイオラ、お前が俺をどう思っているかはよく分かった」

「好んで愚か者の真似ばかりしているからですよ。ほら早くお金をせびってください。あなたの親切心がどうしようもない愛を生み出す前にね」



「それでオリヴィアさん、あなたはどうしたい?」

「どうしたい、と言われましても……」

「ヴァイオラが勝手な真似をしてすまない。これは謝罪できる。ただ、こんな謝罪では足りないことは百も承知だ。こちらとしても勝手にここから放り出すのは気が進まないが、さりとていきなりここに参加しろと言われても困るだろう。だから偉そうではあるが考える時間を用意する。これでどうだろう」

「私としてはそれで構いませんが、しかし、いいのですか。単にここに居座って?」

「マライアが何とかしてくれる」

「すがすがしいほどの人任せぶり、社長、本当に尊敬します」

「マライアさんはいいんですか?」

「私としては構いませんよ。社長が仰っていることですから。ただ社長に危害を加えられたら遠慮なくいってください。合法的に暴力を振るえるチャンスですから」

「そうそう」

「ヴァイオラ、オリヴィアの面倒を見てくれ」

「わかった。ついでに貞操ももらっていい?」

「みなまで言う必要があるか?」



マライアとヴァイオラはオリヴィアと共に別室に移ると、寝る場所と食べ物がある場所だけ教えて好きにしていいと判断を任せた。オリヴィアは釈然とせずついこう聞いた。


「どうしてそこまでしてくれるんですか?こんなことを言う資格はないとわかっているんですけど」

「社長が面倒を見てくれと命令されたからです」

「それだけですか?」

「ええ、それだけです」

「あの、フェスタさんってなんなんですか?」

「さあ、私にも分かりません。一つ間違いなく言えるのは働く気がないということですね。ヴァイオラはわかる?」

「人をぶっ殺しているのはよく見るけどね。比喩的な意味で」

「比喩的な意味って一体……」

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