第6話

 勉強のほうはなかなか捗らないまま、研修旅行の日がやってきた。

 早朝に学校へ集まり、クラスごとにバスにふりわけられて、班ごとにかたまって席に座る。

 原と和泉、佐々木と伊藤に前後を挟まれて、僕と亘理は隣同士の席になっていて、なんであここだけ男女なんだと言いかけて、彼女に遠慮してやめておいた。

「最近、亘理とばかりいる気がする」

「そう?いいんじゃない。そのうち私無しでいられなくなるかも」

 そう言って彼女は笑うが、勉強に関しては、確かにいなくなられては困るだろう。


 バスの中で、おやつを前後に移動させたり、伝言を受け取ったり、ゲームをしたりして車中の時間は過ぎた。いよいよ到着する前に、担任が荷物をまとめるよう告げる。

 早朝に出たこともあって、時間はまだ十字過ぎだ。

 背の高い佐々木が荷物を降ろしていると妙に目立つ。彼は班全員の荷物をそれぞれの席において回っている所だった。

 ありがとう、と女子チームから感謝の声が上がるが、佐々木は目もやらずに手をひらひらさせている。

「あいかわらず佐々木はイケメンだねえ」

 と、亘理が僕をからかうように言うのが、なぜだかおもしろくなくて、佐々木につてが欲しくて僕に取り入ってるんじゃないか、みたいなことを言ってしまった。

 彼女は見る間に膨れ面になって、そんなことしないよ、と機嫌の悪い声を出す。

 僕の方は、別に本気で言ったわけではなかったけれど、ここで折れるのは何だか癪だったし、同時に戸惑いもした。これではまるで僕が妬んでいるみたいだと思った。佐々木が女の子に受けがいいのは、今に始まったことじゃないのに。


 僕と亘理は、午前から始まったオリエンテーリング中、必要な事以外は話さなかった。僕は男子連中と固まって歩いたし、女子もそうだった。

 女子たちの中では、亘理は普通にしているようだったし、僕も気にせず佐々木と伊藤と談笑しようとしたが、ついつい目がいってしまい、それは失敗に終わった。平然としていられなかった自分が、何だか情けなかった。


 お昼の時間は外の設備で各班カレーを作ることになっていて、男子は野菜を運んだり、米を洗っていたりした。切ったり、煮たり、焼いたりは、女子の方におまかせだ。

 僕が六合もある米を洗っていると、ころころとタマネギが転がってきた。拾って転がってきた方を見ると、亘理と目が合う。僕はタマネギをつかんで彼女に渡すと、ごめん、と詫びた。

「いや、勝手な想像して、勝手なこと言って、ごめん。下心あるみたいな言い方、悪かったと思う」

 亘理は、しばらく僕をながめているようだった。

 やがて笑い出すと、やだ、目が痛いと少し鼻声でつぶやいた。

「下心ね…」

 そう言って、一瞬、生真面目な顔に戻り、僕をポカポカ叩いた。

「痛い…」

「そうだね、痛いくらいじゃないと気付かないんだよね」

「何が…」

「何でもないよ。もっとわかりやすくしなきゃダメかなって」

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