第2話 路地裏の少女
「ふぅ………危なかった……」
咄嗟に能力で転移した路地裏にて、安堵の息を吐きながら呟く。
本当に危なかった。普通に私を殺そうとする勢いだった。いや、折角召喚した私をみすみす殺すわけが無い。きっと気絶させて隷属させるだろう。本当にそんな事ができるかは分からないが、私の"能力"という力はきっとこの世界特有の現象だろう。どこかに私のように能力を得た人物が居るかもしれない。隷属させる能力を持つ人物だって居るだろう。そんなのを使われてしまえば私は多分自我を壊される。
そう考えながら、私は導かれるように路地裏の奥へ歩いていった。
「……お主、この世界の者では無いな?」
急に真後ろから話しかけられ、「うわぁ!」と軽く悲鳴を上げながら声の方へ振り向く。そこには私よりも小柄な、小学生みたいな女の子が立っていた。幼い見た目とは反して、中々に歳を食ったような口調だ。全身を包むようなボロボロのベージュのローブで、フードを深く被っている為、顔も見えない。フードが少し不自然な膨らみ方をしている。
「うわぁ!とはなんじゃ。失礼な。」
腰の辺りに手を当てながら少し怒ったような声色でそういうロリっ子。少し圧がある。私でも分かる。このロリっ子は只者じゃない。
「あ……それは…ごめんね?」
圧に気圧され、思わず言葉に詰まりつつ、謝る。ロリっ子は満足したように話しかけてきた時の声色に戻る。
「話を戻すが、お主、この世界の人間では無いだろう?」
「え…?ええ。そうだけど…なんで分かったの…?」
驚いた。どうして分かったのだろう。服装だろうか?だけど、それだけじゃ"この世界の人間じゃない"なんて断言できないだろう。
「お主は唯ならぬ力を持っておる。妾にも計り知れぬ。」
「力…?能力の事…かな?」
「なにっ、能力じゃと!?」
ロリっ子は声を張り上げ、慌てた声で私に言ってきた。
「能力ってありふれてないの?」
のんびりとそんな質問をする。
「馬鹿者!ありふれている訳があるか!!」
ロリっ子はあまりにぶっ飛んだ世間知らずを叱るように言った。
どうやらありふれていないらしい。確かに私の能力はチートとも言えるであろう代物だけど、それは召喚された勇者だから。と思っていたから、勇者特典的な物だと思っていた。
「能力とは!本来、妾のよう………魔族の王たる者、つまり、魔王と呼ばれる者と、その血族、そしてこの世界の勇者の血族のみじゃ!」
そんなに珍しいものだったの……?じゃあどうして私に能力が……?ていうか…"妾のような"って言おうとした…?フードが不自然に膨らんでるし、もしかして…?まあ、深く考えるのはやめよう。今は不思議なロリっ子くらいの認識で良いだろう。また会うことがあれば、聞いてみれば良いだろうし。
「えっと…じゃあ、どうして私に能力が…?」
困惑しながら私は目の前のロリっ子に尋ねる。
「知らぬ。」
「知らぬって………」
淡々と答えられ、心の中で"どうしてだよ!"と、理不尽に怒ってしまう。
ロリっ子は先程の言葉に付け足すように、この世界で気をつけるべきであろう事を私に教えてくれる。
「ただ、1つ言えることがあるとすれば、お主はこの世界に疎い。騙されぬよう、気をつけることだ。それと、その能力の事は口外せぬ事だ。もし能力を使うのならば、くれぐれも魔法に見せかける事じゃ。」
「魔法…?」
魔法なんてものがあるのか…。いや、それなら私の描いたあの魔法陣と同じものがこの世界にあって、それが偶然召喚の魔法陣の物だった。それを使って召喚の魔法を発動し、私を召喚した。そう考えれば辻褄は合うか。とんでもない偶然だが、考えるだけ無駄だろう。
「ふむ…そうじゃな。お主に魔法を一通り教えておくとしよう。」
そうロリっ子は言うと、ロリっ子の足元に私の物とは違う、少々禍々しい魔法陣が一瞬で描かれた。だが、それは床に描かれた、と言うよりも、床とロリっ子の間に描かれた、と言う方が正しいかもしれない。描かれた魔法陣は、描かれた部分が赤黒い光を控えめに放っていた。
「凄い………」
思わず見蕩れていた。もうじき魔法が発動するのか、控えめだった光は徐々に強さを増していき、足元からロリっ子を包むように炎の柱が天高く立つ。私は驚きながら、ロリっ子を心配したが、数秒後、炎の柱は魔法陣とともに完全に消えた。
やがて私の視界に映ったのは、側頭部からおでこの上辺りまでねじれながら生えた黒に近い灰色の角と、それを強く目立たせる要因になっているであろう綺麗に整えられた銀髪の、赤色の眼光を放つ目を持つ、見た目(身長)通りの童顔のロリっ子。その小さな体を包む衣服は、赤と黒を基調とした大変豪華なドレスのようだが、動きやすいように仕立てているのか、丈は普通のドレスよりも少し短い。
私がポカーンとしながらじっとそのロリっ子を見ていると、ロリっ子は目を閉じ、腕を組みながら満面のドヤ顔で言葉を紡ぐ。
「と、この様に、魔法というのはとても便利なもので、努力することでお主もこの程度の魔法など比べ物にならぬほどの大魔法が……」
ちらっとロリっ子が目を開けて私の方を見ると、私のポカーンとした顔を見て首を傾げ、言葉を止めて自らの体を見た。
はっとした顔でロリっ子は私の方を見ると、顔を赤くして、言った。
「あ、あああああああああ!!!!!!み、見るなぁ!!!!!!!」
正直、魔法よりもこのロリっ子の可愛いところの方が凄いと思ってしまった。
私がそう思いながらロリっ子を見ていると、ロリっ子が釘を刺してくる。
「お主、妾のこの姿の事は、と言うか、妾の事は絶対に口外せぬようにするのじゃぞ?」
「分かってるって。でも、この路地裏、普通に街中の路地裏だと思うし、あんな派手に炎の柱を立てちゃったらすぐバレると思うよ?」
言うと、ロリっ子ははっとしたような顔をして、やってしまった…と呟く。
「妾は人間達に見つかる訳にはいかぬ。これから妾は帰るが、お主も気をつけるのじゃぞ。」
そう言うと、ロリっ子は先程とはまた別の魔法陣を足元に展開すると、光に包まれて消えた。
「なんだか、嵐みたいなロリっ子だったなぁ…」
と、嵐のように過ぎ去ったロリっ子の余韻に浸っていると、甲冑の甲高い足音と、辺りの騒然とした声を聞き、はっとすると、急に現実に引き戻された気分になる。
「やべ、私もとりあえず何処かに逃げなきゃ……」
そう言うと、何処か無いかと辺りを見渡し、能力を発動して家の屋根の上に転移する。
「ふぅ………危なかった………」
甲高い足音がすぐそこまで近づいてきて、慌てて近くの家の屋根の上に転移したのだが、バレなかったようで良かった、と安堵の息を吐く。
「なんか、私って逃げてばっかりね。」
突然、今までの事を思い出し、そう呟く。
「どうして私があんな奴らから逃げなきゃいけないんだろう。」
どうして、私が悪いことをしたみたいに言われなきゃいけないんだろう?
そんな、至極真っ当な疑問が頭にいくつも浮かんでくる。
頭が良い人間は何処か頭のネジが外れていると言うが、それは紗羅も例外では無かった。いや、高収入の職業に就けるような頭の良さを不意にして外に出たくないというエゴの為にイラストレーターという仕事を選んだ時点で相当ぶっ飛んでいるだろう。
「よし、私の平和な引きこもり生活を邪魔してきた挙句私を都合よく利用しようとしたこの国を力を付けて、能力を使いこなせるようになって、滅ぼしちゃおっ。」
どこかに遊びに行くかのような軽い声だったが、その声にはこの短時間で積み重ねられたとんでもない怒りが込められていた。
こうして、突然異世界に召喚された引きこもり少女は、自らを召喚した国を滅ぼすことを決意した。
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